第15話 作戦会議
放課後の教室で、マノンとミーアが何やら密談してやがる。
俺抜きで作戦会議とは、まだまだ信用されてないみてえだな。
だけど、俺だって負けるわけにはいかねえんだ。
勝てない作戦だったら、口を挟ませてもらうぞ。
「マノン、やるからには負けないでよね? あなたは王女なんだからね?」
「ミーア、信じて。私、負けない!」
「うん、頑張ってね。応援してるから」
なんだ、根性論かよ。応援してるって言いながら、心配そうな顔しやがって。
お目付け役だから、王女の立場を気遣ってやがんだろうな。
それじゃダメだ。やるからには、絶対に勝たなきゃならねえ。
「お前ら、俺に作戦立てさせやがれ。絶対に勝たせてやるからよ」
「何を言ってるの。勝負ごとに絶対なんてあるはずないでしょ?」
「私、絶対、勝つ。作戦、いらない」
自信たっぷりみたいだが、お前は弱いじゃねえかよ。
とっておきの獣化だって、うまくコントロールできねえんだろ?
俺は絶対に勝つんだ。お前になんか任せちゃいられねえ。
「いいから、いいから、俺も混ぜろよ。それよりもな、俺はラドガンがどういう奴かわかんねえんだよ。お前ら、何か知らないか?」
ラドガンってやつは、1年の時は別なクラスだった。
ゲームでの記憶もないから、作戦の立てようがねえ。
「ラドガン・ベッキーニ君は、キモタス子爵家に仕える男爵の家柄で、魔法は氷系。だけど魔法はあまり得意じゃなくて、なんだか変わった格闘術を使う人よ」
「キモタス子爵家?」
「うちの学校にいる、ヘンター・キモタス様の家よ」
「うへっ、よりにもよって、あいつの配下なのかよ」
魔法が得意じゃないのは好都合だ。
格闘の物理攻撃なら、俺が『憤怒の力』を使えば耐えるのはたぶん問題ない。
「ラドガン、男、自慢する。私、嫌い」
「ああ、そういえばマノンは、以前にもあの人とやり合ったわね」
「へぇ、何があったんだ?」
「廊下でラドガン君が女の子とぶつかったときに、『女なら道を開けろ』って言ったのよ。それを聞いたマノンが怒ったら、今度は『女のくせに口答えするな!』って」
ラドガンって野郎は、相当な男尊女卑みてえだな。
今回の対戦のきっかけだって、マノンが男をバカにしたからだったし。
そういう性格は戦ってる最中も利用できるかもしれねえから、覚えといて損はなさそうだ。
「私、思い出した。ラドガンも、絶対倒す!」
「どっちも引き下がらなくて大事になっちゃって、先生が飛んでくるほどの騒ぎになったことがあったのよ」
「なるほどな、堂々と戦える機会を、向こうも待ち望んでたってわけか」
マノンは喧嘩っ早いから、あちこちで遺恨を作ってそうだな。
今じゃ留学生の獣人王女ってのは知れ渡ってるから、相手の方が引いてくれてるみたいだが。
ラドガンは、マノンを打ち負かす自信を持ってるに違いない。
そんなやつと一騎打ちになるような状況を作っちゃまずい。
マノンが追い詰められて、完全に獣化しちまったら殺戮兵器だからな。
よし、作戦を思い付いたぜ。これなら絶対にあの二人に勝てるはずだ。
「作戦なんだがな――」
「私、二人、絶対、倒す!」
「待って、マノン。それだったらツリヤーヌくん、先にあなたが戦って! あなたが二人を倒せば、それでこの勝負は勝ちでしょ?」
「ダメ! それ、私、戦えない!」
頬を膨らませて、ミーアを睨みつけるマノン。
一方のミーアも、今回は譲らない様子で睨み返してやがる。
なんでお前らは、そんなにまともに戦おうとするんだよ。
「ルールはバトルロイヤルにしようぜ」
「なんなの? それ」
「聞いたこと、ない」
ああ、しまった。この世界で通じるわけがねえか。
「4人同時に戦って、最後まで残ったやつのチームが勝ちっていうルールだ!」
なんだ? 二人とも考え込んじまったな。
イメージが湧かねえか。
だったら、もっと具体的に指示してやるか。
「マノン、お前はジーンと戦え。そしてやっつけたら、ラドガンと戦ってる俺を手伝うんだ。2対1に持ち込めば間違いなく勝てるだろ」
「それなら味方の援護もできるし、いいルールかもしれないわね」
よしよし、ミーアが乗ってきた。
こいつもこのやり方なら、俺たちが勝てるって踏んだんだろう。
「それ卑怯! 私、認めない!」
「どこが卑怯なんだよ。2対2の真っ当な対戦方法だろうがよ」
「2対1、ダメ! 絶対!」
ああ、面倒臭せえやつだな。タイマンでないと認めねえのかよ。
だけど、こいつの目は絶対に譲らないって感じだな。
拳まで握り締めやがって……。
「すまねえ、言い方が悪かったな。マノン、お前はまずジーンと戦え。俺はその間、ラドガンが卑怯な手を使わねえように繋ぎ止めておくから、ジーンに勝ったらこっちに来い。そしたら俺は、お前とラドガンの戦いを見届けてやる。これでどうだ?」
「マッコール、1対1? ラドガン、1対1?」
「ああ、そうだ。だったら卑怯じゃねえだろ?」
「それ、いい! 私、納得。両方、絶対、勝つ!」
まぁ、嘘だけどな。マノンが負けそうなら、手を出すに決まってんだろ。
目配せしたら、ミーアもわかってくれたみたいだ。
この作戦で、絶対に勝つ!
だけど、マノンはちょっと心配だな。ゲームじゃジーンに負けやがるし……。
「ジーンの魔法には気を付けろよ。距離を取って、一発食らわしたらすぐに離れろ。それを繰り返せば、お前は勝てるはずだ」
「わかった。そうする」
ヒットアンドアウエイさえ守ってくれりゃ、ジーンには負けねえだろ。
それにゲームとは違って、俺も戦いの場に混ざってる。
ピンチの時は、助太刀だってしてやれるはずだ。
「それからマノン、一つだけ約束してくれ。獣化しても構わねえが、絶対に理性までは吹っ飛ばすなよ?」
「それだけは、私からもお願い。そんなことになったら、マノンが学校にいられなくなっちゃうかもしれないから」
「わかった、約束する。獣化、少し」
とは言っても獣人だから、熱くなったら何をしでかすかわかったもんじゃない。
そうなる前に決着をつけねえと。
「ルールと作戦はこれでいくとして、場所と時間はどうすればいい?」
「私としては万が一を考えて、あんまり騒ぎにはしたくないんだけど……」
「万が一ってなんだ? 俺たちが負けるってことか? 信用ねえんだな」
「万が一、絶対ない!」
これは俺の名前を上げるチャンスなんだから、負けるわけがねえだろ。
そのための作戦なんだからな。
準男爵の俺が、男爵どもを堂々とぶっ倒してやるんだよ!
「わかったわ。それじゃ剣技場でどうかしら。教室二つ分ぐらいの広さはあるから、4人同時に戦うには充分だと思う」
「おお、観客は? 観客は入れるのか?」
「えっ? 観客?」
「観客、観客」
「ちょっと、マノンまで……。練習試合なんかもやる場所だから、2階にはちょっとした観覧席があるわよ」
俺の晴れ舞台としちゃ充分だ。
ゲーム内じゃ一方的にやられるだけのはずの俺が、主人公の鼻を明かすチャンスがついに来た。
ジーン・マッコール! 覚悟しやがれ!
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