底辺貴族に生まれた雑魚悪役は、成り上がるために憤怒の力で全てを蹴散らす。

大井 愁📌底辺貴族の雑魚悪役

底辺貴族に生まれた雑魚悪役は、成り上がるために憤怒の力で全てを蹴散らす。

序章

第1話 運命の邂逅

 どうして今まで気が付かなかったんだよ、くそったれ。


 ここって【王女殿下は俺の嫁】のゲームの世界じゃねえか!


 回復魔法を覚えた主人公が、大勢の女を治療しながらエロイことをしまくる、いわゆるギャルゲー。

 前世じゃ随分とお世話になったやつだぞ?


 そんな転生前の記憶が今頃蘇るなんて、遅すぎんだよ!


 今の名前は、アーク・ツリヤーヌ。

 ゲームの中じゃ主人公が名声を上げるための、ただの踏み台キャラだったはず。


 なんでこの流れで主人公じゃねえんだよ!


「これじゃ、ゲーム世界に転生したって意味がねえだろ!」


 俺の家は最下層といわれる男爵のさらに下の準男爵。それも一代限りの親父の名誉爵位だから、俺の身分は何も保証されちゃいねえ。 


 そして前世の俺は、社長の長男として生まれたものの零細企業だった。

 あの時も親父は俺に「すまん、この会社はお前に残してやれそうもない」って言いやがった。


 今と同じじゃねえか。

 あんな人生は二度と御免なのに、また繰り返させるつもりかよ!


「冗談じゃねえぞ! また前世みたいな人生で終わってたまるか!」


 OK、わかった。神がそういう仕打ちをすんなら、俺は悪魔に魂を売ってでもこの世界でのし上がってやんよ!


 中途半端な地位や名誉なんてクソ食らえだ。

 俺は上級貴族まで上り詰めて、絶対に下っ端貴族を見下してやる。


「今まで俺を見下してきたやつをひざまずかせてやるからな、この野郎!」


 そうは言っても、イライラする……。

 なにしろ俺には、もう時間がねえ!


 主人公が16歳の誕生日にドラゴンの守護者から回復魔法を授かると、ゲームが始まっちまう。


 それなのに俺は魔法が使えねえなんて、理不尽すぎんだろ!

 貴族なら魔法が使えるのが当たり前だっていうのに……。


 魔法を使いたけりゃ、この世界に7体いる守護者のどれかと契約するしかねえ。

 だけど光の守護者は国王家に、火、水、風、氷の守護者はそれぞれ、4家ある侯爵家が厳重に匿ってやがる。


 侯爵家は配下の伯爵家に、伯爵家はさらに配下にと、眷属を分け与えて絆を強めてるらしいが、準男爵家のウチにはそんなものはいねえ!


 そのせいで俺は魔法が使えないんだ、くそったれが!


 イライラしてても仕方がねえ。こういう時こそ冷静になるべきだ。


 ウチに守護者がいねぇなら、いるところに頼みに行けばいい。

 なんだ、簡単な話じゃねえか。


「君は馬鹿かね? 大事な守護者様を準男爵家の貴様に会わせるはずがなかろう」

「無作法者、守護者様は門外不出じゃ! しつこいと切り捨てるぞ!」

「土下座されても嫌なこった。それよりもお前、うちの家畜の世話でもしないか? ああ、お前が世話係じゃ、どっちが家畜だかわかんなくなっちゃうねぇ」


 クソッ! どケチがっ!

 どこへ行っても門前払いしやがって。


 ああっ! 余計にイライラしてきやがったああああ!


 守護者と契約できなきゃ、魔法が手に入らねえじゃねえかよ!

 このままじゃ、ちっとものし上がれねえだろうが、くそったれ……。


 こうなったら、行方が知れないっていう他の守護者を探すしか方法がねえ。

 だけど、そんなに都合良く守護者とやらが転がってるはずねえよな。

 

 ああイライラする。本当にイライラする。


 俺の前に姿を現しやがれ! 守護者!


 ん? ここはどこだ?

 守護者を探し回ってたら、街はずれまで来ちまったか。


 ……はぁ? 女のケツ?


 なんでこんなところに女の尻が。しかもこっちに向けやがって。


 褐色の肌でプリっとしていて魅惑的。黒いビキニで肌が露わ。

 しかもなぜだか、細い尻尾がヒョロっと生えてやがる。


「ふぇぇ、嵌っちゃったのぉ。そこのあーた、助けてぇ」


 柵に嵌ったとか間抜けすぎんだろ。


 普段だったらニヤけてたかもしれねぇが、今はイライラの頂点。

 こっちはムシャクシャしてるっていうのに、バカにしやがって!


 ――ドカッ!


 憂さを晴らすために、力任せに蹴り飛ばしてやったぜ。


 「あぁっっん♡」


 ああ、スカッとする。ざまぁみやがれ……って、えっ?


 柵の向こうに吹っ飛ばしてやったってのに、振り返ったピンク色の髪のこの女は、なんで頬を赤らめてやがんだ?


「柵に嵌って困ってたのよぉ。蹴り出してくれたお陰で助かったわぁ。本当にありがとうねぇ。いい蹴りっぷりだったわよぉ♡」


 おいおい、見た目は人そっくりだけど、頭には羊のような巻き角が生えてるぞ。

 やっぱりこいつ、人じゃねえよな……。


 俺はとっさに身構える。


 だけど垂れ目で愛嬌のある顔立ちはとっても可愛くて、何よりもそのはち切れそうなほど大きな胸に目が釘付けになっちまった。


 しかも、蹴られたっていうのに欲情的な目で俺を見やがって。変態なのか?


「お前はなんなんだよ、魔物か?」

「失礼ね、あーしは悪魔よ。あーたこそ、身なりを見ると貴族のおぼっちゃまぽいけど、こんな辺鄙へんぴな郊外まで何の御用?」

「誰が貴族のおぼっちゃまだ! また蹴られてえか!」

「ああん、その怒りの籠もった目。ゾクゾクするわぁぁ。お願い、蹴ってぇぇ♡」


 なんなんだよ、こいつ。調子が狂うぜ。

 蹴り飛ばそうと思ったけど、求められるとやる気なくすな。


「蹴ってやるもんかよ! 俺は魔法を覚えたくて守護者を探してんだ、邪魔すんな」

「えぇっ、蹴ってくれないのぉ?」

「蹴らねーよ!」

「もしも蹴ってくれたら、あーしが魔法授けてあげてもいいわよぉ? ねっ♡」


 えっ? 魔法って、悪魔からでも授かれんのか?


 だけど悪魔だぞ? さすがにヤバくねえか?


 いやいや、守護者が見つからない以上、贅沢言ってる場合じゃねえ!

 蹴れ蹴れうるさいのがちょっと気になるけど、こいつならトロそうだし何とでもできんだろ。


 よし、決めた! 俺はこの悪魔を利用して、貴族社会をのし上がってやるぜ!


「わかった。本当に魔法を授けてくれるなら蹴ってやってもいい」

「ホントに蹴ってくれるの!?」

「その代わり、嘘だったら蹴り飛ばすからな!」

「うーん、それも魅力的ねぇ」


 程よい木の枝を拾って、地面に模様を描き始めた自称悪魔。

 これって魔法陣ってやつだよな……。


 こいつ、何をするつもりだ?


「ふふふっ、それじゃぁ、あーしと契約を交わしてもらうわね」

「えっ? 悪魔と契約? それって、魂を抜かれたりすんのかっ?」

「そんなことしないわよぉ」


 悪魔に手を掴まれた。こいつ、俺を魔法陣の中央に連れていくつもりか。


「あーた、名前は?」

「アークだ。アーク・ツリヤーヌ」

「そう、アークね。あーしはブララーナ。契約の儀式を始めるわよぉ」


 ブララーナと名乗った悪魔は、掴んでいる俺の手を大きな胸に導く。


 えっ? ちょっ、これ、おっぱ……。

 そっちから当てたんだから、ちょっとぐらいなら揉んでもいいよな?


 ドキドキと胸が高鳴る俺の耳に、ブララーナの声が響く。


「汝アーク・ツリヤーヌと我ブララーナ、今ここに契約することを誓わん!」


 胸に当てた俺の手の甲に、足元の魔法陣と同じ模様がピンク色に浮かんだ。

 なんだ、これ。みるみると濃くなって、どんどん光を帯びていくんだが。


 ――ピシャーン!


 雷に打たれた……ような気がしたけど、何も変わってないな。

 だけど腹の奥底から、沸々と湧き上がってくるこの感じ……。


 って、なんだよ! むかっ腹が立って、イライラしか湧いてこねえじゃねーか!


 とにかく今の俺は、あり得ないぐらい無性にムシャクシャしてるぞ!


「これであーたは魔法が使えるようになったはず。約束守ったんだから、ねぇ早く蹴ってぇ。お願いよぉ♡」

「うるせえ! 本当に使えるようになったのか、確かめてからだ」


 学校の魔法の授業じゃ、みんなこうやってたよな。


 手のひらを広げて、右手を突き出して、あとは……ああ、よくわかんねえ!


「とにかく、やってやる! 悪魔と契約した俺の魔法、発動だ!」



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 大井 愁です。


 今回はあまり書かない異世界転生ものに挑戦してみました。


 前回同様、意外に思われる方も多いかもしれません。


 次話投稿は5/14の朝7:00を予定しています。


 『第6回ドラゴンノベルス小説コンテスト』の長編部門に応募しますので、

 ご声援のほどよろしくお願いいたします。

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