無駄にGREATな第一魔法

Norinα

第一章 無駄にGREATな第一魔法

序章 無駄にGrotesqueな現代魔法

 魔法が使えるようになったら、何がしたい?


 あれやこれやと思い付くだろうが、まずは誰もが腕を組み、思い悩むだろう。


 魔法。あまりにも漠然。魔法という概念の輪郭が視えない。ゆえに悩むのも当然だ。


 何を以て魔法とするのか、それは未だ不明。


 もっとも、不明ゆえに魔法と呼ぶのかもしれない。


 しかし、1+1=10というデジタル技術の基礎である二進法の解ではなく、十進法の2という解が至極当然の常識であるように、物事には基準が必要だ。


 ここに名を失い、その名が宿していた体をも奪い去られた少年がいる。


 俺だ。


 代わりに、ランドセルと黒の短パンがこよなく似合う新たな体と、魔法を得てしまった。


 この俺の魔法を基準としよう。


 俺は雷、電気、それらに関わる事象に対し、俺の意思が及ぶ限り、その全てに変化を与えることができる。

 そして、ただそれだけ。


 これが俺の魔法であり、魔法の基準だ。


 そんな魔法を手に入れて、何がしたい?


 ビームを撃ちたい。荷電粒子砲の理論は確立している。

 俺の魔法ならば最大の問題とされている出力エネルギーの確保も可能だ。


 空を飛びたい。俺は鳥や飛行機と同じような揚力による飛行はできない。

 しかし電場や電磁力を操り、電磁気相互作用によって体を宙に浮かせ、空を舞う事は可能だ。


 病気になっている人を治したい。死んだ人を生き返らせたい。

 浅い外傷であれば、血液に電気的刺激を与えて素早い止血が行え、細胞分裂の周期を早めて治癒できる。

 切断に至る外傷や内臓損傷の場合でも、物が残っていれば神経もろとも接合できるし、その気になれば細胞複製により修復だってできる。

 感染症であれば滅菌。難治性の病であれば、電気穿孔せんこう法による遺伝子治療も行える。


 死人でさえも、遺体が残っており、且つ死後三十分以内であれば蘇生できる。

 三十分がリミットである理由は、細胞の死んでいく速度が、細胞分裂による生きた細胞の増殖速度を上回る時間だ。

 もっともこれはケースバイケースであり、生前の健康状態や死因によって変動はある。


 他にも俺が使用できる魔法と呼ばれる事象は星の数ほどあるだろう。


 ただし、それは俺が見つけられる星の数だけで、俺が考え付くだけ。


 可能性は無限大だが、俺が拾う事のできる数だけの魔法しか使えない。


 そして、力のある者の周りには、力がつどっていく。

 正義だろうが、悪だろうが、重力に引き寄せられるように、関係なくたかってくる。


 そんな力を、そんな魔法を、使えばどうなる?


 ビームを撃てば、俺は兵器として扱われる。正義を求める者は有効利用、もしくは廃棄を……物としてだ。悪ならば世界の破滅を……俺を凶器として。

 それぞれが求める。


 空を飛び回ればどうなる? 傷を負った者達を治していけばどうなる?


 決まっている。


 運が良くて、一生その仕事。

 運が悪くて、人類発展のために、より多くの人が魔法を使えるようになるために、人体実験や解剖。


 だから、俺は考えた。


 魔法が使えるようになったら、何がしたい?


 俺は自分の身を守りたい。そして同じ過ちを犯さぬよう、以前より幸せに暮らしてきたい。


 だが、俺は魔法という力を手に入れてしまった。


 弱き者をしいたげ、力が無いからと諦め、それらを無視してきた日々を救える。


 隠し通して生きる選択肢もあったが、それでは以前より幸せに生きることはできない。


 何もできずに黙って指を咥えているより、できるのにやらない。俺はそれを悪だと感じたんだ。


 悪にはなりたくなかった。誰だってそうだ。


 だからと言って、大っぴらにできる力ではない。


 俺は決めた。

 魔法を使うにしても、ひっそりと、正しい事に使うつもりだった。


 それがなぜ、こんなことになっているのだろう?


 脳天を抉られた死体の転がる無駄にGrotesqueな世界から逃げるため、俺は視線を落とす。


 薄暗く、ベトベトな、赤黒く、血塗れた、凍えて、震える、小さな、自分の手に――。


 答えは単純だった。


 力ある者は、力ある者を呼ぶ。

 正義であれ、悪であれ。


 力を持っている以上、何人なんぴとたりとも誰からも、逃げられはしない。

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