精霊王に見捨てられた国の末路
白雪の雫
第1話
マリーゴールドの間の天井を飾るのは煌びやかなシャンデリア
そこに居るのは自己主張するかのように華やかな衣装に身を包んだ紳士淑女
ある者は料理を堪能したり、ある者は顔見知りと会話を楽しんでいる。
今宵、ロイヤルミント王国の王宮では王国の建国祭が催されていた。
「ノルンよ」
出席者達が思い思いに楽しんでいる中、綺麗な顔立ちをしている青年が乳輪どころか乳首、いや、豊満な乳房を晒した下品なドレスに身を包んでいる蜂蜜色の髪の少女と側近であるシャルルとカール、二人の婚約者であるエトラとベローナを伴いながら壁の花に徹しているミルクティーベージュ色の髪の清楚可憐な美しい少女に声を掛ける。
青年の名前はヴィルヘルム。
ミルクティーベージュ色の髪の美少女ことノルンの婚約者にしてロイヤルミント王国の王太子だ。
そして、出席者達の視線を気にする事なく乳房を晒したドレスに身を纏いヴィルヘルムと腕を組んでいる蜂蜜色の髪の少女はルミナという王太子が夢中になっている公爵令嬢である。
「王太子の名において、お前のような野蛮な女とは婚約を破棄!そして、国外追放とする!!!」
「・・・・・・」
ヴィルヘルムの宣言に建国祭に出席している貴族達はノルンがどのような行動を取るのかと、固唾を呑んで見守るしか出来ないでいた。
元々、ヴィルヘルムとの婚約は、彼の父親である国王がノルンの聖女という肩書と能力、彼女の実家であるアメジストセージ家の武力を目的に結んだものである。
顔だけは一級品。
だが、中身は脳みそが海綿体で出来ているのではないかと思えるレベルでの年中発情期。
しかも、己の地位と権力を笠に着て女に見境なく手を出しているだけではなく、孕ませた女が産んだ子供が男であれば処分させ、女であれば母娘丼をしようと計画しているクズなゲス野郎だ。
当然と言えばいいのか、そんなヴィルヘルムの側近であるシャルルとカールも主に似た性格の持ち主である。
では、ヒロインを肉便器としか思っていないエロ同人誌に出てくるクズなゲスとしか言いようのないヴィルヘルムが王太子という地位にあるのかというと、彼の母親が王妃だからである。
「王太子殿下のご尊命に従います」
母親が王妃というだけで王太子であるヴィルヘルム、そして側近達の事など何とも思っていない・・・というか心の底から人間として軽蔑しているノルンはカーテシーで彼の言葉に従う旨を示す。
「それでは御前失礼いたします」
ヴィルヘルムとの婚約が破棄になった事を家族に告げたら、後は以前から計画していた通りに一族郎党と領民を連れてクローバーレッド王国へと移るだけだ。
「ところで・・・ノルン様は兵士達と共に戦うのだとか?」
「女が戦うとは生意気な!」
「いや、戦うのではなくノルンは自分の身体を使って兵士達を癒しているのでは?」
「ノルン様、貴女のように男を誘惑する女の事を何と言うのかご存じでしょうか?・・・阿婆擦れです!」
「所詮は野蛮な地を治める辺境伯のご息女ですもの」
「猿であって当然ですわね」
(猿?それってルミナ様、エトラ様、ベローナ様、そしてヴィルヘルム様、シャルル様、カール様の事ですよね?)
「「「「「「獣風情が聖女とは片腹痛い!!!」」」」」」
これで王宮が泥臭くなくなって風通しが良くなるな
辺境伯の娘の分際で顔色を変えず冷静に対応した事が面白くなかったのか、六人は王宮から退出しようとしているノルンを嘲笑う。
その顔は正に彼等の心の醜さが出ているものだから、出席者達は思わず顔を歪める。
「王太子殿下達にお聞きいたします。ロイヤルミント王国に天災が起こらず平穏無事であるのは、他国からの侵略を防いでいるのは誰なのかご存じなのですか?」
「そんなの、国王直属の軍隊のおかげで決まっている!」
「子供でも知っている常識を知らないとは・・・」
「やはり、辺境伯の娘なだけあってノルン様はオツムも弱いのですね」
いや、この国が富国強兵なのはアメジストセージ家と聖女であるノルン様、そして精霊王様のおかげなのだが?
この国、終わったな・・・
後者が常識である事を知らないヴィルヘルム達のオツムの弱さに、出席している貴族達は内心頭を抱えるしか出来ないでいる。
「ロイヤルミント王国の国境を護っている兵士達の傷を癒し、アメジストセージだけではなく王国全土を【世界の食糧庫】と謳われるまでにしているのは精霊王様のおかげです」
では、精霊王様の力を借りている私が猿や獣であるのなら、王太子殿下達は何なのでしょうか?
ねぇ、精霊王様?
ノルンの呼びかけに一人の男性(?)が彼女の隣に姿を現す。
『な~に、ノルンちゃん?』
彼(?)・・・いや、彼女(?)こそが火の精霊サラマンダーや水の精霊ウンディーネといった精霊達の上司とでも言うべき存在にして森羅万象を司る精霊王だ。
絵画や彫刻では男性になっているが、その時の気分で青年になったり、老婆の姿を取っているので実際は性別などない。
だが、彼(?)彼女(?)から感じる神々しさに紳士は跪き、淑女はカーテシーをする事で精霊王に対する敬意を示す。
「精霊王様、今日は女性の姿なのですね」
『そうよ~。何だか女性になりたい気分だったの』
女性ではなく、オネエじゃないのか!!?
何であんたはそれをスルーして普通に話を進めているんだ!!?
この時ばかりは、建国祭に出席している貴族達だけではなくヴィルヘルム達も心を一つにしてそう思った。
『ところで、ノルンちゃん。アタシに何か聞きたい事があるんじゃないの?』
「はい。実は王太子殿下達に猿、獣と言われたのです。辺境伯の娘というだけで私が猿や獣だとしたら、王太子殿下達は何になるのでしょうか?」
『ねぇ、ノルンちゃん。辺境伯って確か侯爵に近い地位で、しかもアメジストセージは交易の要所だから王都より栄えているわよね?』
((((((え゛っ?そうなの?))))))
辺境伯が田舎の貧乏領主を指すのだとばかり思っていた六人は驚いてしまう。
よく見ればノルンが纏っている純白のドレスは絹で出来ており、裾の部分は真珠で飾られている。
これだけでもアメジストセージの財力が伺えるというのに、何故、自分達は田舎の貧乏領主だと思ってしまったのだろうか?
『人間界の常識に疎いアタシでもそれくらいの事は知っているわよ?それなのに、人間の・・・しかも王太子が辺境伯の立場を理解できていないのは不思議よね~』
「おそらくなのですけど、辺境という言葉が田舎を連想させるのかも知れません。ところで精霊王様、先程の問いについてですが──・・・」
『そうね~・・・。ノルンちゃんの婚約者とその取り巻き達を一言で表すとしたら【歩く性欲】かしら?』
ノルンちゃんだけが知る彼等の真実の姿を皆に見せた方がいいわね
そう言った精霊王は光魔法を使って、ある場面を壁一面に映し出す。
※ルミナ達というか三人が着ている胸を晒すドレスですが、十五世紀のイングランドでは若さと美を示す意味でやっていたそうです。
十八~九世紀でもあったそうですが、性的な意味になってしまったそうです。
この話でそれをやっているのはルミナ、エトラ、ベローナだけです。
※この場に国王夫妻がいなかったのは、偉い人は遅く登場するというお約束を守る為です。
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