魔法使いの欠片

ひじり

【第一章】

【1】婚約破棄からの成り上がり

 父と母が亡くなった。

 貴族であり、凄腕の冒険者でもあった両親は、ぼくにとって目指すべき存在だった。


 でも、今はもういない。どこにもいない。

 冒険者仲間と共に魔王討伐へと向かい、命を落としてしまった。


「エール=ウムラウト。本日をもって、貴方との婚約を破棄させてもらうわ」


 更に追い打ちを掛けるように、婚約者であるロワンナから呼び出され、婚約破棄を言い捨てられる。


「……理由、聞かせてもらえるかな?」

「ふんっ、言わずとも理解しているでしょう」


 チッ、と舌打ちし、ロワンナが続ける。


「今の貴方は、貴族ではないわ。魔王討伐の手柄の独占を企み、間抜けにも返り討ちに遭った逆賊の子よ」

「……逆賊だって?」


 確かに、それは事実かもしれない。

 ぼくの両親は、冒険者仲間と共に魔王討伐を果たした。

 そしてその手柄を独占する為、仲間を手にかけようとしたらしい。


 爵位を剝奪され、財産を没収されたのは、それが原因だった。


「今更願ったところで何も変わらないでしょうけど、この世に生まれたことを後悔するのね」


 でも、ぼくは信じない。

 誰よりも強く、真っ直ぐだった父と母が、仲間を裏切るはずがない。


「さあ、これ以上貴方に用は無いわ。早くここから出ていってもらえるかしら?」

「言われなくても出て行くよ……ただ、一言だけいいかな」

「何よ? 金の無心なら無駄よ」


 汚いものでも見るかのような目つきで、ロワンナはぼくと視線を合わせる。


 拳を握りしめ、一呼吸する。

 そして、ぼくはロワンナの顔を睨み付けた。


「――もう一度、ぼくは這い上がってみせる。そしてぼくとの婚約を破棄したこと、後悔させてあげるよ」


 それだけ言い残し、ぼくはロワンナの屋敷をあとにする。

 手元に残ったものは何一つ無いけど、絶対に諦めたりはしない。


「手っ取り早くロワンナを見返す方法は……やっぱり、同じ道を歩んで名誉を回復するのが一番か」


 思案し、すぐにまとまる。

 今の自分に出来ることは、一つしかない。


 父と母、二人と同じように、冒険者になろう。

 武勲を立てて、有名になって、そしてゆくゆくは王都一の冒険者――否、魔法使いになってみせよう。


「父上、母上、どうかぼくを見守っていてください……」


 心に決め、迷いの無くなったエールは、足取り軽く王都への道を歩き始めるのだった。

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