第57話6-6 夢

6ー6 夢


こんな風に平和な毎日が続いていると、ついつい全てを忘れて人生を楽しんでしまうな。

いつまでもこんな幸せが続くと僕が思い始めてしまった頃のことだ。

もしかしたら、僕の罪は、許されたのではないか、とか思っていた。

だけど。

運命の神が神殺したる僕を許すわけがなかった。

その日は、僕にとっては、特別な日だった。

一週間に一度、マリアンヌに会いに行く日だった。

僕は、取れ立てのイチゴを使ったショートケーキを作って、ローザの花束を持ってマリアンヌのもとへ向かった。

マリアンヌは、魔の森の村の端にある小さな赤い屋根の家に1人住んでいる。

僕がそこへ訪ねていくと、彼女は、いつもハチミツ茶を入れてくれる。

そして、2人で僕の作ってきたお菓子を食べながら、昔話とかをするのだ。

これは、今の僕の大切な一週間のルーティンの1つだ。

僕らは、もはや、かつてのような恋人同士ではなかったけれど、全てのしがらみのなくなった今では、僕らは、最も親しい友人のようなものだった。

僕が、彼女の家へと向かう小道を歩いていると、彼女が庭に出て手を振っているのが見えた。

「やあ、マリアンヌ」

僕が、挨拶をするとマリアンヌは、特に表情を変えることもなく頷いた。

「こんにちは、ユヅキくん」

僕らは、天気がいい日は、庭のベンチで並んで腰かけて話すのだ。

その日も、僕らは、庭のベンチに並んで腰かけていた。

不意に、マリアンヌが僕に言った。

「ユヅキくん。わたしにこんな穏やかな時をくれて、ありがとう」

「何?いきなり」

僕は、マリアンヌのために作ってきたケーキを皿に取り分けながらきいた。

マリアンヌは、黙ったままで微笑んだ。

僕は、なんだか、頬が熱くなってくるのを感じていた。

彼女は、僕にいつものようにハチミツ茶を

入れてくれながら微かに笑っていた。

「王の番犬といわれたこのわたしが。生まれたときから戦いの中で生きてきたわたしが、あなたのために今、お茶を入れているなんて、不思議だ」

「僕も、そう思うよ」

僕は、手についた生クリームを舌でペロッと舐めた。

「いつも言霊使いとして悪神と戦っていた僕がこんなケーキを君のために作ってるなんて」

「ねぇ、ユヅキくん」

マリアンヌが儚げな微笑を口許に浮かべた。

「時々、これは全て夢なのかもしれないと、わたしは、思うことがある。あんな風に別れてしまったわたしたちのために、この世界が用意してくれた優しい夢」


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