5 幸せの意味は

第42話5-1 光の御子

5ー1 光の御子


僕とアーシェとアリーとナツキ兄さんが、フランシスたち騎士団と共に、今、最前線となっている魔族の街 パルカスへと向かって王都 グリニッジから旅立ったのは、その年の夏の初めのことだった。

僕らは、王家の紋章の入った馬車に乗って騎士団に守られて約1ヶ月かかって、魔界の辺境の街 アンブロシアに到着した。

アンブロシアは、パルカスの近くの街で、すでにカスケード王国の支配下に置かれていた。

フランシスは、僕たちを街の中央にある軍の士官たちの宿舎へと案内した。

そこは、かつてこの街の有力者だった者の屋敷だったらしく使用人たちもそのまま残されていた。

フランシスは、僕たちを使用人たちのリーダーである元メイド長であるらしい大柄な猫耳族の婦人に紹介してから、自分で部屋まで送ってくれた。

「何か、必要な物があれば、すぐに私に言ってくれ」

フランシスは、僕たちにそう言うと、使用人に運ばせていた荷物を部屋の中へと片付けさせた。

「ユヅキ、あなたたちのことは、何があろうとも騎士団が守る。安心してくれ」

フランシスは、にっこりと笑った。

「後、婚約したらしいな、ユヅキ。また、ゆっくりと話をきかせてくれ」

あれ?

なんか、フランシスの目が・・

笑ってない?

僕は、なんとか、笑顔でその場をごまかした。

フランシスと屋敷の使用人たちが去った後で、アーシェが僕に言った。

「あれが、王の弟ですか?」

「ああ・・」

僕が頷くとアーシェが首を傾げた。

「変だな。彼から、処女の匂いがしたような気がするんですけど」

「しょっ・・!」

僕は、思いっきり動揺していた。

な、なんてことを言うんだ、アーシェ!

「そ、そんなこと、その、気のせい(じゃないけど)・・」

ナツキ兄さんとアリーが一緒になってクスクス笑った。

「いろいろ事情があるんだよ、あの子には、な」

「事情?」

問うアーシェにナツキ兄さんが言った。

「あの子はな、聖女の卵なんだよ」

カスケード王国の王族の中には、勇者や聖女といった特別な力を持つ者が生まれることがあった。

だが。

彼らは、ことごとく現王 アウデミスの手によって殺されたのだと噂されていた。

「残ったのは、王弟であるフランシスただ1人だ」

なぜ、彼、いや、彼女だけが残されたのか。

理由は、2つあった。

1つは、フランシスが生まれたときから男として育てられていたため。

2つ目は、彼女が聖なる力を秘めている最後の王族だったから。

「アウデミスは、彼女をもしものときの生け贄として生かしている」

「生け贄?」

アーシェが聞いた。

「どういうことですか?」

「それは」

ナツキ兄さんが口ごもったので、僕が代わりに答えた。

「アウデミスは、ある目的のために光の御子を探しているんだ」

「光の御子?」

「ああ」

僕は、頷いた。

「彼は、かつてカスケード王国の王族が世界を統一した際に使われた神器『生命の書』の封印を解くために光の御子を探しているんだよ」


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