転生恋愛物語
健全過ぎる紳士
俺
日の照っている寒い朝。隣の部屋は昨日の夜もお楽しみだったようで俺は何となくまだ眠い目を擦った。
日曜だってのにコンビニのバイトでもうすぐクリスマスだってのに彼女もいない俺はため息一つついて、歯を磨いて髭剃って顔洗っていつものようにボーっとしながらチャリを漕ぐ。
別に寒くなったってだけで何の代わり映えもしない道をただボーっと。
バイト先に着くと同じ大学に行ってる俺のほぼ一人しかいないといっても過言では無い小学からの付き合いの友人の斗至琉(としる)が「おう」と声を掛けながら駐輪場に入ってきておれも「おう」と一言だけ掛けて。そう。いつものように。
「…トシはさクリスマスとか何か予定あんの」
何となく斗至琉に声を掛けた。
「別にお前こそどうなんだよ」
「別に…」
そう。別になんかあるってわけじゃない。そりゃ天文学的数値分の1の奇跡が起これば俺らみたいのにも望みはあるかも知れない。でも現実って残酷で俺らは童貞で別にいい大学に行ってるってワケじゃないし、その中でも俺ら二人は…
「てかさ普通にあり得ないだろ」
「…まぁだよな…」
二人でほぼ同じ人生のルートをたどってきたからこそ分かる。お互いにスクールカーストの最下位にいるってこと位。
二人とも年齢イコール彼女いない歴で、まぁ苛められていたワケってじゃないけどまぁお互いにクラスに一人はいるヤバい奴扱いされていて、まぁだからこそなんていうか仲が良いのかもしれない。
「お前は凄いデブで毛むくじゃらだからデブゴリラ。俺はスゲー間抜けな顔でいつもヘラヘラして見えるからヘラヘラインプか…」
「大学はいってから5キロは痩せたぞ」
失礼なって感じでトシが言った
「いやお前の5キロは誤差だよ誤差」
暫く無言だったけど、なんだかおかしくて二人で笑った
「ヘラヘラインプ」
「るっせーよ」
「今日もいつものゲーセン寄って帰ろーぜ」
「そういやお前知ってる?あの格ゲー新しいやつでるらしいぜ」
無駄口言ってるとバイトの先輩に怒られて。でもいつもこんな感じで。バイト終わって二人で速攻いつものゲーセンに寄った。
俺はトシには別に本心を言おうとは思わない。いつも隣でヤってる奴らがホントは羨ましいとかお前とじゃなくて他の大学生がそうしているようにおれも女子と一緒に遊びたいとか。トシだってホントはそうしたい筈で、というかこれくらいの年だったら男なら皆思うんだ。そんなこと。普通に。
童貞だって高校で皆捨ててるのが多かった。いやもしかしたらそれが普通なのかも。普通にそうやって恋愛したり別れたり、冬の道も寒いねとか言って二人で歩いてコンビニで別の味の肉まん買って半分にして食べたり…そんな純粋じゃなくてもいい。冗談言い合って二人で今この瞬間もこんな男二人じゃなくて女と…
ゲームセンターからでると雪がポツポツと降ってきた。
「じゃあ俺こっちだから…また明日大学でな…」
「おう」といって斗至琉と反対の方向に別れた。冬のせいなのか朝とはちょっと違う街中はクリスマスムード一色で、サンタの帽子被ったおじさんが働いててシンパシー感じたり、落葉樹に巻き付けられたイルミネーションを観てなんとなく綺麗だなと思ったり、その下を歩いてる男女グループにイライラしてみたり
中学位の時は何となく大人になってそしたら普通に恋愛もしてって思っていたけどそんなことは無かった。現実を知って自分はモテない惨めな存在ってのがもう高校ではっきりしてきて。
「ただいま…」
ぼそっと呟いてアパートに帰ってきた。コンビニ弁当を開けてもそもそと食べた。風呂洗う元気が出なくてぼうっとしてるといつの間にか結構時間が経っていることに気づいた。すると隣からいつもの声が聞こえてきた
「今日も一発良いだろ。なぁ…」
「こんなに毎日やってたら隣に迷惑じゃない」
「隣?あぁあの童貞ぽい奴だろ。むしろきかせてやろうぜ」
「ほんとに聞こえたらどうすんの」
「知らね。オカズにでもすればって感じ……」
わざといつもよりデカイ声で聞こえるように喋ってる感じだった。そして段々とその声は、男と女のそれをしている声に変わっていった。激しい情熱的な性の声に
「…そういや隣の彼女結構美人なんだよな…胸もデカイし…」
そんな風に思っていると自分のソレが大きくなっているのを感じた。隣から聞こえてくる女の喘ぎが自分の本能の性的な衝動に訴えかけていて、ソレを強く刺激しているように感じた
「…なんか…我慢できない…」
俺はおもむろに自我行為をしだした。心では分かっているのに。これがどんなに気持ち悪いことかってことを。それでも止められなかった
「…射…精…しちまった…」
なんとなくぐちゃぐちゃになった心を落ち着かせようとしたけど、手に付いた白い液体を見て余計気持ちが滅茶苦茶になった
「何してんだろ俺…」
おもむろに駆け出した。ドアを勢いよく開けて外に飛び出た。外は酷く吹雪いていた。それでも徐に自転車に乗って、ワケも分からなく出てくる涙をただただ流して、意味も分からないまま、どこに行くかも分からないまま。
そして彼は信号を無視してトラックに突っ込みそのまま亡くなった。
そしてまた彼の物語が彼女の物語として始まるのだ。
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