幸せを運ぶ花

むら

1話

私は不幸な人間だ。何があっても幸せにはなれないと思っていた。ほんの少し前までは。

五年前、高校三年生だった私は必死にバイトをし続けてやっとのことで貯めたお金で上京した。それまでの私の人生は端的に言って終わっていた。四歳の頃私の両親は離婚した。それからは母が女手一つで育て上げてくれた。生活はなかなかに苦しくて、あまりいい暮らしはできていなかった。小学校の頃はガリガリに痩せていて見た目にも気遣わず、性格も暗かったから、男子からはもやしとバカにされて、女子からは無視をされていた。とても辛かった思い出したくもない。でもそんな私でも母だけはどんな時でも優しく接してくれた。もう今となってはそんなやり取りも出来ないけど。中学での状況は小学校の頃とあまり変わらなかった。だけど一つだけ違うことがあった。それは2年生で大親友の「みさき」が出来たことだ。みさきとは2年生で初めてクラスが一緒になって仲良くしてくれた。

「ひなたちゃんってさどんな本読んでるの?」

中学校でも明るくなれなかった私はいつも本を読んでいた。そんな時席替えで隣の席に来たみさきちゃんが私に話しかけてきた。

「え?あ..あの......」

言葉が詰まる。

「どうしたの?大丈夫?」

みさきちゃんの問いかけに私は頷くことしか出来なかった。そんな私を見てみさきちゃんは私を気遣ってくれているのか毎日話しかけてくれるようになった。

「私髪切ったの!めっちゃ可愛くない?」

「お菓子作ってきたからひなたちゃんも食べて〜」

「今度おすすめの本教えてよ!」

「私ひなたちゃんの家行ってみたいな」

なんでこんなに話しかけてくれるのか分からなかった。最初は罰ゲームか何かかなと思っていて、つい聞いてしまった。

「なんで私に優しくするの?」

みさきちゃんは、

「なんでって私たち友達じゃん」

って笑ってた。

友達。私にとっては無縁の存在だった。今まで親しか私に優しくしてくれる人がいなかったのに、そんな私に友達が出来たことが私にとっては本当に嬉しかった。それからはほぼ毎日遊ぶようになっていった。幸せだった。でもその幸せは長くは続かなかった。三年生に上がると同時にみさきちゃんは親の事情で転校することになったらしい。皆がお別れをする間私は教室の角でひっそりと泣いていた。家に帰ってから母に慰めてもらっても心にぽっかり空いた穴は埋まらなかった。そしてそのまま高校へと進学することとなった。高校は地元の県立高校に進学した。みさきちゃんのような友達はできなかった。それからはちっちゃい頃にテレビで見て以降ずっと憧れていた東京に上京することを考え出した。東京に行ったら私も変われるかもしれない。早く東京に行きたいその一心で必死に働いた。大学に進学出来るほどのお金はなかったから、進学はせず東京に高卒後そのまま上京した。みんなが一度は夢見たことのある大都会こんな場所にこれて最高の気分だった。そして安いアパートを借りて小さな会社で必死に働いた。でもその会社はブラックだった。だけど働き始めの私はそんなことに全然気づかなくて、ひたすら働いた。ブラックということに気づいたのは、上京してから2年ほどたち母が久しぶりに会いに東京まで来てくれた時だ。電話で会社の説明をしている時から母は、

「その会社ブラックなんじゃない?」

とずっと言っていた。だけど上司の人達は優しかったから、

「全然そんなことないよ。いい会社だよ。」

と全く重くは受け取っていなかった。

そしたら母が東京に行くと言い出して私の家に一週間ほど泊まっていくことになった。

そして母が私に会いに来る当日となった。駅で母と会った瞬間私はゾッとした。母がげっそりとやつれているのだ。なにがあったのか聞きたいところだったが、私との再会を喜んでいたのでなかなか聞くことが出来なかった。そして私はそのまま母が帰る日まで聞き出すことは出来なかった。そして最後に母とお別れする時に言われたことは、

「もしも私がいなくなっても強く生きること、自分を大切にすること、パートナーを見つけること。分かった?」

「なにそれ? 分かったよ」

と笑って返す私に対して母は笑う素振りを見せずにそのまま車内に消えていった。

私は母と別れてから思った。母の最後の言葉は遺言では無かったのではないだろうかと、私は母に急いで会いに行こうとした。しかし仕事があったため、その時はできなかった。予定が空いてる2週間後に1回実家に帰ろうと思っていた。しかしそんなことを考えてる矢先、母は死んだ。末期のガンだったらしい。私は母に今までの感謝を伝えることも死ぬ瞬間会うことすら出来なかったことを悔やんだ。いやそんなことをしようともせず仕事を優先した自分を憎んだ。だけどもし会社に連絡をしたとして休みをくれただろうか。もっと早くブラックということに気づいていれば、母の遺言になった母がいなくなっても強く生きること、自分を大切にすることという言葉を思い出した。私は自分を大切にしようと思いその会社を辞めることにした。そして何の気力も出なくなった。私の心を支えていた大きな柱であった母がいなくなったんだ。当たり前のことなのかもしれない。泣いて泣いて目が見えなくなるくらいまで涙を流した。自殺も考えた。だけど母の遺言を守りたかった私は踏みとどまった。こんな時に慰めてくれて一緒にいてくれる人がいればいいのにと思っている時私はふとみさきちゃんを思い出した。今頃どこで何をしているのかな。でもそんなことを思ったら余計悲しくなる。もう会えない人たちのことを考えただけで涙が止まらない。

やっぱり私は不幸な人間だ。何があっても幸せにはなれない。

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