第456話 新・希少種会はじまり

「新・希少種会、は〜じま〜るよ〜!」


 僕が宣言したら、すでに話したことがある希少種族プレイヤー以外も集まってきた。

 想像以上にたくさんいるんだね?


 ほとんどが第三陣のプレイヤーだ。

 ヤナとぷる君と一緒に来た猫系希少種さん(見た目は三毛猫に似てる)も、第三陣プレイヤーで名前はトアさん。


 他の種族は小型ワンコ、大型ネコ科、イタチ系、羊系、コウモリ系、鳥系──ほんとに多種多様。

 でも、一番確率が高いはずのスライムは、ぷる君しかいないようだ。スライムの成長率の悪さはよく知られてるから、ガチャでスライムが出たらみんなやり直しちゃうんだって。


「──スライム漁をしてレベリングしたらいいのに。ステータスアップすれば、イベント中の海でもなんとかなるよ?」


 僕がボソッと呟いたら、みんなが「えっ、そんな裏技が!?」と驚く。

 スラリンたちが漁をしてることはよく知られてたみたいだけど、それがレベリングっていう点でも効率がいいってことは気づいてなかったんだね。


 アイテムでステータスアップさせたとはいえ、まだレベル3だったぷる君が普通に漁をできたから、スライムは海で強いっていう性質があるのは確実だと思う。それがどうしてなのかはわからないけど。


「あ、そういえば……」


 僕の説明を聞いたムギがふと思い出した感じで声を上げた。みんなの視線がムギに集まる。


「はじまりの街で本を読んでた時に、スライムに関する記述を見たことがあるにゃ。遥か昔、スライムは漁の相棒として漁師に重宝されていたけど、海のモンスターを乱獲することになったから、海の神様に嫌われて陸地に追放されたんだって。しかも、陸地で弱体化するっていう呪い付きで、にゃ」

「スライムにそんな隠しストーリーがあるの!?」


 ビックリした。まさかいろんなゲームで雑魚扱いされてるスライムに、そんな特殊な設定が付け足されていたとは……。

 このゲームを作った人は、なんでスライムにそこまで細かい設定を付けたんだろう?


「野生のスライムは呪いの影響で海に近づけないらしいにゃ」

「なるほどー。でも、プレイヤーとかテイムされたスライムは、そんな呪いは関係ない、と」


 補足説明に頷く。

 僕は偶然スラリンを海に連れ出したから、スライムの効率的なレベリング法を発見できたってことだね。

 普通に考えたら、弱いスライムを海に放とうなんてしないもんなぁ。


 特殊な設定に、周りで話を聞いていた人たちがザワザワしてる。気持ちは僕もわかるよー。


 ここまでこだわった設定があると、スライムがいずれゲームの重要なミッションにも関わってくる気がする。スライムがいなきゃクリアできないミッションとかありそう。


「そもそも、海の神様ってなんですかー?」


 リコが「はいはーい!」と手を挙げて視線を集めてから疑問を口にした。

 みんな顔を見合わせるだけで答える人はいない。


 海の神様かぁ。たぶん創世神とは違うんだよね? だとすると──


「海の王かな? でも、オーシャンさんがそんなことをするとは思えないし……」


 オーシャンさん推しとしては、この説は否定したい!

 いくら乱獲したからって、スライムに弱体化の呪いをかけて追放するようなことを、オーシャンさんはしないよ、きっと!


「モモ、オーシャンさんってなんだよ?」


 ツッキーがきょとんとした顔で聞いてくるから、僕はリュウグウの宮殿図書館で見たオーシャン様の勇姿を熱く語って聞かせた。

 リュウグウを呪った人とオーシャンさんの戦いは、ほんと凄かったんだから! カッコいいんだよー。


「……モモさんがファンだっていうことは伝わってきました」


 ソウタが苦笑しながら言う。

 もふもふ教の大半は「もふもふ神さまが推してるなら、私たちも推そう!」と熱を上げてくれてるんだけど、ソウタは感化されなかったかぁ。


「他に、海の神様候補はいないんですかー?」


 ヤナがぷる君のために焼き魚をほぐしながら聞いてくる。

 ぷる君の世話をせっせと焼くなんて、ヤナは結構優しいんだね。でも、スライムのぷる君なら、骨があっても丸ごと食べられるんじゃないかな?


「他かぁ……古竜エンシェントドラゴンとか? 確か、海には水の古竜エンシェントドラゴンがいるはず。古竜エンシェントドラゴンは創世神の使いっていう立場だけど、影響力を考えたら、異世界の住人NPCにとっては神様って言ってもいいよね」

「ほえー、言われてみるとありえる気がしますね」


 ヤナが頷きながら、頭と尻尾付きの骨をぷる君の前に差し出した。

 そっちをあげるんかいっ!


 ぷる君は「カルシウムたっぷり! 僕もこれを食べたら骨をゲットできますかね?」と楽しそうだし、ヤナも「今度はスケルトン・フィッシュだな!」とワクワクしてる。

 二人のノリはよくわからないけど、気が合ってるみたいだし、もう好きにしたらいいと思う……。


「スライムといえば、結局、ぷる君の変態騒動はどういうことだったんだ?」


 ツッキーが首を傾げる。

 ぷる君が「ギクッ」と言いながらプルプルと震えた。僕も称号の件があるし、あんまり話したくないなぁ。


「……スライムの特殊ミッションの影響です! 断じて、僕は変態ではありません!」

「ぷる君が変態かどうかはともかく、いろんな要因が絡み合った結果だから、気にしないで!」


 僕たちの言葉を聞いて、殺気立ってた周囲の人たちがすぐに静まった。

 タマモから説明されてるはずなんだけど、まだ気にしてる人がこんなにいたんだねぇ。運営さんは早くちゃんと説明して修正してほしいな。


 スライムがスライムキングに進化するルートが発現する方法がなんとなくわかったのは嬉しいけど……と考えたところで、聞き忘れていたことを思い出した。


「──あ、そうだ。僕、ツッキーに進化のこと聞きたかったんだよ!」

「進化? あ、モモもそろそろ進化について考え始めてんのか」


 ツッキーが納得した感じで頷く。

 続けて「まあ、こんなにカッコよくなった俺を見たら、進化したいって思いが強まるのも当然だよな! 惚れんなよ、ヤケドするぜ?」とウィンクしてきたから、ちょっと苦笑しちゃった。


 見た目はキラキラしてカッコよくなったけど、相変わらずチャラいなぁ。まあ、そこがツッキーのいいところでもあるよね。


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