第52話 イベント楽しみ

 街中を探索し終えて、リアルで休憩して戻ってきたら、朝になっていた。

 ちょうどいい時間だし、フルーオさんの果樹園にバイトに行こう。


「おっはよ〜ございま〜す」

「おはよう、元気だな」

「たくさん休んだからね!」


 フルーオさんが笑いながらカゴを渡してくれる。

 この果樹園のバイト、ミニゲームみたいになってるんだ。カゴに収穫した果物を入れると、勝手に集計してくれる。


 果物の収穫数に応じてボーナスポイントがついて、ちょっぴりお金をもらえるから、ラッキー。報酬に果物をもらえるだけでも、僕はありがたいんだけどね。


「今日は梨とぶどうの収穫だ。報酬に桃がほしけりゃ、あっちの木から採れるからな」

「りょうかーい」


 バイトは何回かこなしてるから、もう慣れたものだ。指示された果樹の周りを飛んで、ひたすら収穫していくだけ。


「るんるんるん〜、梨はシャクシャク、ぶどうジュワッ。美味しい美味しい果物だ〜」


 歌ってたら、フルーオさんに「果物食いたくなる歌だな」って言われた。微笑ましげなので、鬱陶しがられてはないっぽい。


 単純作業の時に歌っちゃうのは、僕のクセなんだよね〜。飽きないようにするために、無意識で声が出ちゃう。


「るんるるん」


〈行動蓄積により、スキル【歌唱】を覚えました〉


「――あ? まさかの、これで……?」


 思わぬアナウンスが聞こえて、きょとんとした。

 収穫を続けながら、スキルの説明を確認する。


――――――

【歌唱】レベル1

 歌によりバフ・デバフを与える。各効果ごとに歌の登録が必要。歌を登録するには、効果を指定して、【録音】と唱えてから歌う(最大三十秒)。

 レベル1:【意気高揚】……登録歌【――】

 →パーティー全員の攻撃力を十分間、五%向上させる。

――――――


「なんか、不思議なスキルだなぁ。とりあえず登録してみよう」


 まずは【意気高揚】を指定。これは意識するだけでいいっぽい。


「【録音】!」


〈録音を開始します。録音時間は最大三十秒です。三、二、一……〉


「ど~んど~ん、いって~み~よ~♪」


 暫く沈黙。歌、短すぎたかな。これじゃただの掛け声? 歌っぽい感じで抑揚つけて言ってみたんだけど。


〈録音が終了しました。音声を確認しますか?〉


「確認しまーす」


〈再生を開始します。――「ど~んど~ん、いって~み~よ〜♪」――以上の音声が登録されています。修正を行いますか?〉


 僕の声がそのまま聞こえた! なんか不思議な感じ。でも、適度に短いし、スキルの発動合図としてちょうどいいかな。

 ……ルトには、「意気高揚する前に気が抜ける!」って文句を言われそうだけど。


「このままで」

〈音声を登録しました。同じように歌うとスキルが発動します。現在音声が登録されている効果は、バフ【意気高揚】です〉


 行動でスキルを集めようと思ってはいたけど、このタイミングで入手できるとは思わなかったな。

 スキル屋で交換に使えるけど、ちょっと惜しくなる。だって、交換に使っちゃったら二度と手に入らなくなるらしいんだよね。


 ……もっと、惜しくならないスキルを集めよう。


「モモ、もうだいぶ収穫できた。今日はここまでにしよう」

「あ、ほんとだ〜。じゃあ、報酬もらってくるね」


 報酬も自分で採集するのだ。近くの桃の木に行って、採集開始。他の種類はなにをもらおうかな〜。


「――あ、フルーオさんに聞きたいことあったんだった!」

「どうした?」


 収穫した果物の出荷作業をしていたフルーオさんが顔を上げる。


「フルーオさんは幻桃ラールペシェって知ってる?」

「お、懐かしい名前を聞いたな。そりゃ、数年前までこの街の特産だった桃の品種だ。けどなぁ、果樹に病気が流行っちまって、全滅したんだよ。元々育てにくい品種だったから、それ以来幻桃ラールペシェを作ってる農家はいないはずだ」


 肩をすくめて、ちょっと残念そうな表情をしていた。


「フルーオさんは育てないの?」

「……俺は技術が足りない。幻桃ラールペシェを育てるなら、少なくとも【上級栽培】スキルが必要なんだ。それでも枯らしちまうことがあるみたいだから、【神級栽培】スキルがあると確実だな。そこまでのスキル持ってる農家は、もうこの街にはいないが」


 なんか聞いたことのあるスキル名だなぁ。……あ、スキル屋で見たやつだ! 確か、交換には十二個ものスキルが必要で、ちょっとおののいちゃったんだよね。


「【神級栽培】って、どんなスキルなの?」

「【栽培】スキルっていうのが、そもそも農地での収穫量や品種改良率を上げるものなんだが――」

「待って、品種改良率ってなに?」


 初めて聞いた言葉だぞ。

 フルーオさんはきょとんとした後、「あぁ……」と言いながら頷いた。


「モモも農地で栽培をしてるんだったな。それなら知っておいた方がいい。農地で種や苗から植物を育てると、時々レア品種に突然変異することがある。それを農家は品種改良って呼んでるんだ。レア品種は高値で売買されるぞ」

「へぇ、そういう感じなんだ……」


 やっぱり農地で作業するの面白いね。今のところレア品種は見たことないんだけど、【栽培】スキルを持ってないからかなぁ。


「【栽培】スキルは、農作業をしてると不意に入手できる。作業による経験値が貯まってる、なんて言う農家もいるな」

「種族レベルみたいに、見えない経験値がどこかにあるのか」


 それは、積極的に作業しなくちゃ。

 でも、農家として生活してるフルーオさんがまだ【神級栽培】スキルを持ってないってことは、やっぱりすごいスキルなんだな。


「俺は今【中級栽培】スキルを持ってる。【神級栽培】スキルになれば、さらに収穫量や品種改良率が上がるんだろうな。それに加えて、レア品種の生育成功率がほぼ百%になるって聞いたことがある」

「ほえ〜……つまり、幻桃ラールペシェみたいなレア品種を育てるなら、持ってた方がいいってことかぁ」


 悩ましい。幻桃ラールペシェに限らず、農地で作物を育てるなら、あって損はないどころか、得ばかりなスキルであることは間違いない。


 ただ、手っ取り早く【神級栽培】スキルを得ようと思ったら、十二個ものいらないスキルを集めなきゃいけないってことだ。それもなかなか大変そう。


「――詠唱破棄スキルもほしいしなぁ」


 ほしいスキルがたくさんあって困る。とりあえず、いらないスキルを集めてみてから考えようかな。


「それで、なんで急に幻桃ラールペシェについて知りたがったんだ?」

「あ、それはね、パティエンヌちゃんがやってる桃カフェで話を聞いたからなんだ」


 説明しながらメニュー欄からミッションリストを開く。

 前回、パティエンヌちゃんと話した後に気づいたけど、幻桃ラールペシェを探すのってミッションになってるみたいなんだ。


――――――

★イベントミッション★

 第二の街オースで【グルメ大会】が開催されます。大会が開催されるまでに、各店から出されるミッションをクリアし、店を応援しましょう。優勝に導くと、ミッション達成率に応じて豪華報酬をプレゼントします。

 大会ではPC、NPCによる試食・投票により優勝店が決まります。

〈参加店〉

【――】

【ナンバーワン・スイーツフル】

【――】

【桃カフェ・ピーチーズ】

――――――


 これが大本のミッションね。これ自体は運営さんから最近告知があったんだ。第二の街に進んだプレイヤー率が五十%を超えた記念で開催されるんだって。


 それで、参加店の中から桃カフェを選んで詳しく見ると……。


――――――

【桃カフェ・ピーチーズ】

 同業他社による営業妨害により、閉店危機に陥っている店。グルメ大会スイーツ部門に登録されている。

〈ミッションリスト〉現在達成率2/15

『桃カフェ訪問』クリア!

『パティシエ・パティエンヌから話を聞く』クリア!

『桃の納品0/20』

幻桃ラールペシェの納品0/5』

『パティシエ・パティエンヌとフレンド登録』

『桃カフェにお客さんを連れて行く0/10人』

――――――


 桃カフェのスイーツは美味しかったし、ミッション達成しつつ、応援したいよね。

 イベントの豪華報酬の中には、スキルとかレアアイテムがあるらしいんだ。


「……桃カフェが危ない状態にあるなんて知らなかったなぁ。ペシェリーさんが聞いたら、なんと思うことか」


 パティエンヌちゃんの現状を教えたら、フルーオさんが落ち込んだ感じで言った。

 パティエンヌちゃんは常連さんとかに心配を掛けないよう、常に笑顔を心がけてたみたいだから、気づかなくても仕方ないよ。


「ペシェリーさんってパティエンヌちゃんのお父さんだよね。仲が良かったの?」

「ああ。駆け出し農家の頃から、世話になってた人なんだ。パティエンヌも、小さい頃から知ってる娘でな……」


 ポツリと呟いた後、フルーオさんが顔を上げた。


「――モモ。俺が言うべきことじゃないのかもしれないが、ペシェリーさんに代わって言わせてくれ。……パティエンヌの力になってやってほしい!」


 勢いよく頭を下げられて、ちょっと固まっちゃう。あわわ……そんなにされることじゃないよー!


「も、もちろん! 僕なりに応援するつもりだよ。幻桃ラールペシェで作ったスイーツ、食べてみたいし、まずは採ってくるところからかなって思ってるんだけど!」


 普通の桃で作ったピーチメルバが、あんなに美味しかったのだ。幻桃ラールペシェで作ったらもっと美味しいはず。それさえあれば、グルメ大会で優勝してもおかしくないと思うんだよね。


「そうか……! ありがとう。俺ができることがあったらするからな。とりあえず、パティエンヌを手助けするために、これ持っていってやってくれないか」


 大きな袋を渡された。中にはたくさんの桃が入ってる。


「――これだけあれば、新たなメニューを開発するのも困らんだろう」

「わかったよ。持っていくね」


 アイテムボックスにいれたら、桃はちょうど二十個あった。……ミッションを一つ達成できる数だね? ラッキー……?


「あと、幻桃ラールペシェについては、ヒョウ族のマナってに聞くといい。その娘の父親が、幻桃ラールペシェ栽培の第一人者だったんだ。マナなら、なにか教えを受けているかもしれない」

「マナさん……」


 どこかで会ったよね?



******


◯NEWスキル

【歌唱】レベル1

 歌によりバフ・デバフを与える。各効果ごとに歌の登録が必要。歌を登録するには、効果を指定して、【録音】と唱えてから歌う(最大三十秒)。

 レベル1:【意気高揚】

 登録歌【ど~んど~ん、いって~み~よ~♪】

 →パーティー全員の攻撃力を十分間、五%向上させる。


◯NEWシステム

【農地作物『品種改良』】

 農地で種や苗から植物を育てると、まれにレア品種に突然変異する。レア品種は高値で売買される。


◯スキル情報

【栽培】

 農地での収穫量や品種改良率を上げる。農作業の経験値が貯まることにより入手可能。

 初級→中級→上級→神級へと進化していく。


******

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