第33話 便利なところです
昨日は幸せな気分のままログアウトした。
ということで、今日も元気いっぱいです。張り切って楽しむよ!
「ここが錬金術ギルドかー」
やって来たのは、レナードさんの工房近くにあった建物。錬金玉と錬金布が描かれた看板がついてる。
推薦状をもらったし、早い内に加入しとこうと思ったんだ。
「こーんにーちはー」
入ったらすぐにカウンターがあった。そこにいた女性が顔を上げる。黒のフード付きローブを着てて、なんか色気のある魔女っぽい印象の人だ。
赤い唇が妖しげな笑みを浮かべるのを見て、ちょっと引いた。
……こ、こわい。僕、錬金術の素材じゃないよー。襲ってこないよね?
「あら。異世界から来た方ね」
「そ、そうです。ギルドに加入したくて来ました……」
恐る恐る近づいて、なにか言われる前に推薦状を提示する。
「まあ、推薦状を持ってきた異世界の方は初めてよ。優秀なのね」
うふふ、と笑う女性に、作り笑いを返す。
独特な雰囲気の人だな。大人っぽくて色気があって、たぶんミステリアスな雰囲気に惹かれる人もいるんだろう。あまりに馴染みのないタイプなので、僕は戸惑っちゃってるけど。
「どうかな? レナードさんが優しかったからかもしれないけど」
「レナード! 彼が推薦状を出すということは、人柄——内面も良いと保証されたようなものね。わたくしたち錬金術ギルドは、あなたを歓迎しますわ、モモ」
推薦状を一瞬で読んで、女性が微笑む。第一印象より、柔らかい雰囲気になった。僕、こっちの方が好きだよ。
「ありがとう。えっと——」
「あら、いけない。自己紹介がまだだったわね。わたくし、はじまりの街の錬金術ギルドでギルド長を務めているミランダよ。よろしくね、可愛い子」
うふふ、と笑いながら、ミランダさんが僕の頭を撫でてくる。
その指先の動きは意外なほど優しくて、心地よかった。なんか好きになっちゃうぞ?
というか、受付嬢じゃなくて、ギルド長なのかー。いきなり一番偉い人とか、びっくりしたよ。
「よろしく、ミランダさん!」
「ええ。——では、当ギルドの説明をするわね」
ミランダさんが冊子を取り出す。それを見せてもらいながら、説明を聞いた。
錬金術ギルドは錬金術士が加入しているギルドで、各街に一つずつ存在してるらしい。そこでギルド員ができることは四つ。
➀錬金術により生産したアイテムを売買
②ギルドから出される依頼に対して、アイテムを納品
③錬金術に使用する素材の売買
④ストレージの使用
「うん? ストレージ?」
頷きながら聞いてたけど、よくわからない言葉が出てきた。
首を傾げてると、ミランダさんがなにかを渡してくれる。鑑定してみたら【錬金術士カード】って示された。
——————
【錬金術士カード】
錬金術ギルドで発行されるカードキー。ギルドに加入している証明にもなる。使用すると、すべての街の錬金術ギルドで、個人のストレージを解錠できる。
——————
よくわかんないなぁ。
「ストレージというのは、アイテムボックスの大容量版のようなものよ。持ち運べないけれど、どの街の錬金術ギルドでも、あなた専用のストレージを開けることができるわ。——あなたのストレージも用意したから、開けてみて」
ミランダさんは「開けるには、錬金術士カードを宙に翳して、扉が開くようなイメージをするのよ」と続けた。
なるほどー。とりあえずやってみよう。
カードを翳して、イメージ——……ふぁっ!?
突然、図書館のようなものが現れた。というか、僕が図書館みたいなところにいる? ここ、たくさん棚が並んでるなぁ。本はないけど。
それより、ミランダさんの姿が見えないんだけど、どうしたらいいの?
『その空間はあなたが自由に使えるわ。でも、そこにいる生き物は長く生きていられないから、気をつけてね。うふふ……』
どこかから声が聞こえる。
生き物は長く生きられないって、僕もじゃない? え、出たいよ!
そう思った瞬間に、錬金術ギルド内に戻ってた。ミランダさんが「あらあら、早かったわね」と微笑んでる。
「なんだったの!?」
「ストレージよ。仮想空間に存在する倉庫。入れるアイテムボックスというところかしら。容量はほぼ無制限だから、必要に応じて使うといいわ」
「……僕自身が入らないと使えないの?」
「ええ、そういうものだから。一時間以上滞在したらダメよ」
なんだ、制限が一時間なら問題なさそう。
安心して再び解錠。急に倉庫の中にいるのも、チュートリアルの時の転移みたいで、あまり変な感じはしない。
とりあえず、大量にある
——アイテムボックスから取り出した途端、人間の手の平くらいの大きさの透明な球体ができた。中に
それを棚に近づけてみたら、勝手に吸い込まれるように収まった。球体の手前に【
イメージするだけで、数を決めて取り出したり、収納したりできるみたい。面白いなー。
今のところ使わないアイテム、全部しまっとこう。
死に戻りしても、ここにしまったアイテムは失われないってことだよね。便利!
「——ストレージって、すごくいいね!」
錬金術ギルドに戻って、ミランダさんに報告。
僕がにこにこと笑ってたら、「あらあら、気に入ったみたいで良かったわ」とミランダさんも微笑んでくれた。
「アイテムや素材の売買、ストレージの利用は、ギルドに来ないとできないから注意してね。依頼はそこの掲示板やメニューから確認して受諾・報告できるわ。自分のホームに工房を作ったら、売買とストレージの利用もホームでできるようになるわよ」
なんですと!? めちゃくちゃ便利じゃん。これは自分のホームを持ちたいっていう欲が高まるなぁ。
「……たくさんお金稼ぐ!」
「ふふ。工房を作る時は、建築ギルドを訪ねるといいわ。第二の街以降にはあるはずよ」
「わかった! 教えてくれてありがと」
思ってた以上に丁寧に教えてもらえたから、疑問点もなくすっきり。
というわけで、そろそろ移動しよう。
「——また来るよ〜」
「ええ、あなたが錬金術で作るものを楽しみにしてるわ」
手をふりふり。最初はミランダさんの雰囲気に気圧されちゃったけど、良い人だったな。
さて、次はどうしよう。一応、今日の予定は済んだんだよなー。
「うーん。釣りするのもいいし、レベリングもしたいし、料理をしてみてもいいし、早速錬金術を鍛えるのでも——」
したいこといっぱいだなぁ。
たまには、ちょっと掲示板をチェックしてみるか。僕が知らない楽しみ方をしてる人がいるかも。
とりあえず目についた掲示板を開く。一番馴染みのなさそうな攻略板ってやつだ。
ざっと流し読みしてみる。——みんなノース街道の攻略に手間取ってるみたい。第二の街に辿り着けるまで、まだまだ時間がかかりそうだなー。
「ん……?」
ふと、ある発言が気になった。
『ノースのモンスって、鑑定したら【聖なる地を守る者】みたいな言葉が出てくるけど、あれってなに? ただのフレーバーテキスト?』
『知らね』
『それ、私も気になってました』
『埴輪って死者の魂を守ったり、鎮めたりするもんだよな。馬っぽいモンスも、埴輪の系統っぽい。どっかに古墳的なものがあるとか?』
『まだ未知の場所にあるかもしれないね』
答えはみつかってないっぽい。
そう言われてみると、そんな言葉があったかもしれない。
メニューから【モンスター辞典】を開く。これには、出会ったモンスターの鑑定結果が記録されてるんだ。
「あ、ほんとにあった。バトルには関係ないと思って、気にしてなかったなー」
どういう意味なんだろう。聖なる地かー……気になるね!
でも、探すには、レベリングが必要かな。というか、レベリングと同時進行でいける?
「——まぁ、ぼちぼちと楽しみながら探ってみるか」
今後の大まかな予定を立てて、今日は釣りを楽しむことにした。レベリングは次回から。
スラリンとたくさん魚をゲットして料理するぞー!
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◯NEWアイテム
【錬金術士カード】
錬金術ギルドで発行されるカードキー。ギルドに加入している証明にもなる。使用すると、すべての街の錬金術ギルドで、個人のストレージを解錠できる。
◯NEWシステム
【ストレージ】
生産ギルドで使える大容量の倉庫。プレイヤー自らストレージ内に入り、アイテムの管理を行える。中に滞在できる時間は一時間。それ以上滞在すると、死に戻りすることになる。
【モンスター辞典】
遭遇したモンスターを鑑定すると記録される。鑑定スキルのレベルが上がると、内容が自動的に更新される。
◯NEW
【錬金術士ミランダ】
はじまりの街の錬金術ギルドの長。一級錬金術士。見た目は魔女のような色っぽい女性だが、世話好きで優しい。特に小さいものを可愛がる。
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