第28話 ピクニック(気分)
洞窟前の地面にクッションを三つ置く。それと小さめのテーブルも。休憩の時に使うかなって思って、買っておいたんだ。
この世界、戦闘に関係ない生活用品はお安いんだよねぇ。いつか自分の家を作って、インテリアにこだわりたいな。
「本格的に休もうとしてやがる。いくらセーフティエリアとはいえ……」
「いいじゃない。景色はいまいちだけど、ピクニックみたいだし」
呆れてるルトと楽しそうなリリをクッションに座るよう促して、いざ成果披露です。
お刺身、焼き魚、煮魚、天ぷら、からあげ、揚げてあんかけかけたやつ——。色々あるからお好きなのをどうぞ。
……テーブルがいっぱいだ。ちょっと作り過ぎちゃったかも?
お刺身の盛り合わせとか、ほんと豪華! 赤身魚ないのがちょっと残念だけどね。マグロほしいなー。白身魚だけどサーモンでも良き。あ、あといくらとか。ウニとか。エビとか。貝系もいいな。
……ほしいものがどんどん増えていくよ。
いつか、超豪華な海鮮丼作るんだ! 現実で食べたら数千円しそうなやつ!
「僕、釣りをしてきて魚系モンスターをたくさん獲得したんだ。その後、料理人に弟子入りして、料理スキルを覚えたんだよ」
目を丸くしてる二人に微笑みかける。そろそろ反応がほしいんですけど?
「……会った時からわかってたけど、マジでバトル外を満喫してるな」
「楽しそうでいいねー……」
なぜ呆れられるのか。ゲームなんだから、楽しまないと損では? バトルだけなんて、ストレス溜まっちゃうよ。
……あ、そうだ。
「【召喚】スラリン!」
「きゅぴっ」
今日は登場から鳴くんだね。ちょっとずつ個性が育っていく感じなのかな。
ぷるぷる揺れてるスラリンの可愛さに、自然とにこにこしちゃう。見てて癒やされるなぁ。
「一緒にごはん食べよう!」
ところで、召喚のこと説明し忘れてたけど、二人の反応がないね? 意外と驚いてない? 他にもモンスターの仲良くなった人を知ってるのかな。
「…………って、テイマーのワールドミッションクリアしたの、モモかよ!?」
驚きすぎて固まってただけみたい。
「はーい、そのとおりです!」
良い反応をもらって笑っちゃう。人を驚かせるのも、たまには楽しいよね。
「モモってびっくり箱みたいだねぇ」
「そう? 普通にゲームを楽しんでるだけだと思う」
「最初に希少種ガチャしてる時点で普通じゃねぇよ……」
驚いた後は微笑んで受け入れるリリは器が大きい。それに対してルトは、もうちょっと許容力持った方がいいんでは?
「——すげぇ、ムカつくこと考えられてる気がする」
「さぁて、みんなで早く食べよう! スラリン、
「話逸らしやがったな」
ルトがなんか言ってるけど、とりあえず僕は天ぷらを食べよう。これ、
本当はお野菜とかきのことかも欲しかったけど、この街は農産物が高いから。早く第二の街オースとの流通回復しないかなぁ。
「きゅぴ!」
「美味しい? 良かったね」
スライムも味覚あるんだ……。
嬉しそうに食べてる、というか吸収してるスラリンに頷く。美味しいならば良いのです。
「リリもお刺身?」
「うん。私はお寿司が好きなんだけど」
「お米は第二の街にあるらしいよ」
「え、本当に!? ゲームの中でお寿司を食べられるようになったら、お小遣い節約できるかも……」
現実みたいに、ここでの料理って美味しいもんね。満足感は同じです。
お小遣いでお寿司はなかなか頻繁には行けないし、ゲーム内でそういう楽しみを満喫するのは良いと思う。
「お、ルトはからあげとあんかけかー。揚げ物好きなんだ?」
「魚だけど一番食った気になるだろ」
「魚より肉派か」
「肉は至高」
ルトはお肉崇拝者だった。でも、魚料理でも不満はなさそう。
からあげとあんかけはパンに挟んでもいい感じになるように味付けを濃くしたんだ。ということでパンも追加です。
魚料理を食べるだけでも満腹になる気がするけど、それ以上食べるのに支障はない。味を楽しむだけなら、いくらでも食べられるから。
「——うまっ! サクッとしてるのに、ジュワッて旨味が出てくる……。魚をこんなに旨いと思ったの、初めてかもしれねぇ……」
「これ、街で食べるのより美味しい気がするよ……。どういうこと……? 新鮮さの違いとか、あるのかな。料理スキル、思ってたよりすごい……?」
二人が幸せそうな顔になってる。良きことです。作った僕も嬉しい。
自分で料理してみて気づいたんだけど、屋台で売ってる料理より美味しいんだよ。鑑定で現れないステータスが存在してる気がする。品質表示があるわけでもないし、なんなんだろうな?
僕の全鑑定スキルはまだレベル1だし、レベルアップしたらわかるようになるのかも。
「天ぷら、うまうま」
サクッとした衣の食感の後に、魚の旨味が口いっぱいに広がる。天つゆの用意はなかったから、塩をちょっぴりつけたけど、なんか大人の味わいって感じがしてたまにはいい。
僕としては、天つゆをたっぷりかけた天丼にしたいんだけど。丼もの大好きです。
「野菜がないと、ちょっと罪悪感を覚えるね……」
リリが煮魚にも箸を伸ばしながら呟いた。美味しさで箸が止まらないみたいだね~。よきよき。ルトは「そうか?」って返してる。日頃の食生活が窺える。
「野菜は、第二の街に行ったらお安いんだろうけど」
「あー、第二の街だと、自分で農地を持てるって噂だな。ベータ版で参加してた人が言ってるみたいだから、仕様変更がなけりゃ変わらないだろ」
「農地! スローライフ生活、憧れるね」
「モモはそっち派なんだねー。私はバトルと生産活動を半々くらいでしたいかな」
「俺はバトル」
ルトの意見は聞く前からわかってた。わかりやすいもん。
リリは半々か。僕はちょっとスローライフの方に傾いてる。自分で育てた野菜を使って料理するの楽しそうじゃない? それを友だちに振る舞うのもいい!
錬金術での生産活動をするにはアイテム収集が必要そうだから、バトルもするけどね。
「あ、農地持てるってことはホームも?」
「パーティー単位で家を買えるって話は聞いた。ソロだと資金面で難しいって」
なんか二人から視線を感じる。僕、普段はソロだもんね。
家買うの難しいのかー。部屋借りるとかはあるのかな? 宿暮らしもいいけど、部屋の模様替えとかして遊びたい。自分の陣地作るのって楽しいよね。
「……お金貯める」
「無理そうだったら一緒に買おうよ。部屋分ければいいでしょ」
「俺もモモならいいぞ」
目を丸くする。リリは微笑んでて、ルトは肩をすくめてるけど優しい表情に見える。……本気でそう言ってくれてるんだ。
ゲームの中で偶然出会って仲良くなって、まだそんなにたくさんの時間を一緒に過ごしたわけじゃないのに。二人とも優しいなぁ。
自然と緩んじゃう頬を抑えきれなくて、にまにまとしちゃう。嬉しいんだもん、しかたないよね。
「……ありがとう。もしそうなったらよろしくね」
ソロで買えるように一応がんばるけど、リリたちと共同で家を持つのも楽しそうだな。
「ふふ、モモ、照れてる?」
「そんなことないもーん」
「わかりやすいやつだな。……それで、空腹度は回復したけど、松明はどうするんだ?」
呆れた感じで笑いながらも、ルトが話を逸らしてくれた。わかりにくいけど優しいんだよなぁ。さくさく攻略を進めたいだけなのかもしれないけど。
……あ、スラリンの滞在可能時間が終わっちゃった。五分は短すぎるよー。早くスキルレベル上げたいな。
「松明を作るにはねー」
しょんぼりしながら、錬金玉を取り出す。二人から興味津々な眼差しを感じた。錬金術を見るのは初めてらしい。
以前流し見た時に松明のレシピがあったことは覚えてたけど、材料があやふや。だからあらためて錬金玉を触ってレシピを検索する。
「——レシピはいくつかあるっぽい。この辺で材料が揃いそうなのは、【木の枝】と【草玉】を使ったレシピかな」
「木の枝……」
「草玉……」
リリがちょっと遠くにある木を眺めて、ルトは岩の隙間に生えているもこっとした草を凝視した。
そうなのです。実は通り過ぎてきた木からも採集ができるらしいし、雑草からもアイテムが採れるっぽいのです。僕は材料探しのために周囲を片っ端から鑑定して気づきました。
「……んじゃ、またゴーレムの所に行くのか」
「うーん……あの辺の木だったら、僕が飛んで行けそう」
一番近くにある木を示す。十五秒で届きそうなんだよ。素早さが上がったおかげで、飛行速度も増してるし。
レベルアップによる滞空時間増加より、ステータスの素早さを上げた方が効率がいい気がする。次SPもらったら、素早さを上げよう。
「そういや、お前、飛べるんだったな」
「ここまで来るときも飛んでたじゃん」
「俺らと目線変わらなかったから、あんま意識してなかった。でも、戦闘にも役立つスキルだよな……」
「人間が
羨ましがられたところであげられるものではない。これ
「その小さい羽、飾りじゃないんだよねぇ」
「動くよ?」
パタパタ、と羽を動かす。なんか肩を動かす感覚なんだよね。獣人系って尻尾を動かすのはどういう感覚なんだろう?
「モモは木の枝採集な。リリは万が一の場合に備えて、魔術で援護できるよう備えとけ。俺はその辺の草から採集だな」
「草玉を採れるかどうかは運要素が強いみたいだから、がんばれー」
サムズアップして応援したら、ルトに「なんかムカつくからやめろ」って言われた。
ひどい。これ可愛くない? 親指ほとんど上げられなくて、もふっとした
ちょっぴり不満に思いつつ、食べなかった料理やクッション、テーブルをしまって準備万端。
さて、ひとっ飛びしますか。
******
◯NEWアイテム
【木の枝】レア度☆
バトルフィールド内の木の一部から採集できる。様々なアイテムを作る素材になる。
【草玉】レア度☆
バトルフィールド内の雑草からまれに採集できる。様々なアイテムを作る素材になる。
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