第24話 釣りはスローライフの極みでしょ

 今日もゲームです。

 釣り人のおじいさんに会った後に宿でログアウトしたので、ベッドで寝転がってます。


 このベッド寝心地良すぎ。ログアウトのためだけに使うのもったいないなぁ。


 宿でログアウトすると、空腹度が減少しないっていう利点はあるんだけどね。ログインした途端、死に戻りしてるって怖いもん。


「うーん……ゲームの中でまでぐうたらしちゃいそう……」


 寝て食べるだけの生活でも、ゲームの中なら太らなーい。


 なお、リアルの方で体を動かしていないことになるので、ゲームプレイ時間には要注意です。不健康一直線!


「いや、動きますけども……」


 ベッドの魅力に抗い、行動開始。

 フレンド欄を見ても、リリとルトはログインしてないっぽい。というわけで、フィールド探索はお休みして、今日は釣りをしよう。



 ランドさんのところで回復薬をゲットしてから西の港へ。表示を見たら、この港もバトルフィールド扱いらしい。モンスターが出るからかな?


 まずは釣具屋さんで釣り餌を購入。……ニョロニョロしたのじゃなくて良かった。お団子みたいな餌に一安心。虫は苦手です。


「こーんにーちはー」

「モモ、よう来たな」


 夕方の時と同じく、砂浜で海を眺めてたおじいさん。異世界の住人NPCとはいえ、一日中ここにいるんです? 探しやすいけど、ちょっとシステムっぽさを感じちゃうね。


 アリスちゃんなんて、最初以来一度も会ってないよ。どこで遊んでるんだろう? シークレットエリアの地図をプレイヤーに渡すために、街中のいろんなところに出没してる疑惑。


 フレンド欄から連絡取れば、どこにいるかわかるんだろうけど。……あ、これ、リリたちに教えた方がいい情報かな? シークレットエリアを探索したい感じだったもんね。今度会ったときに聞いてみよう。


「早速釣りを教えてもらいにきたよ」


 じゃーん、と釣り餌を見せたら、おじいさんは満足そうに何度か頷く。そして、「じゃあ、釣り場に行くかの」と腰を上げた。


 ここじゃ釣れないのかな? とりあえず黙ってついていこう。

 おじいさんはどんどん海沿いを南へと進む。


 これ、サウス街道の方に出ちゃわない? そこってデバフ使ってくるモンスターが現れるんだよね。

 ……心配だから、フィールド情報をよく見ておこう。サウス街道って表示が出ちゃったら、即回れ右だよ。


「今日はこの辺りが良さそうだ」


 おじいさんが立ち止まったのは、まだ西の港って表示されてるエリアだった。よかったー。


 おじいさんは戦う装備じゃなさそうだし、万が一の場合には僕が守りながら戦わないといけないのかなって戦々恐々としてたんだ。僕、まだそんなに強くないのに。


「日によって釣れるポイントが違うの?」

「当たり前だろう。釣りに慣れてきたら自然とわかるようになるぞ」

「へぇ、スキルを上げるってことかな。それとも釣り人ランク?」

「スキルじゃな。確か……レベル2になると釣れるモンスターの気配を察知できるようになるはずじゃ」


 良い情報をもらった。今日の目標は釣りスキルのレベル上げとモンスター獲得だね。連れたらガットさんにお料理教えてもらうんだー。


「わかった! ここで釣り糸垂らしたらいいの?」


 釣り竿に釣り糸と釣り餌をセット。これ、実際に作業しなくても選択するだけで完了だから楽。実際の釣りもこうなら、初心者でも楽しみやすいんだけどねぇ。


「思いっきり遠くに投げてみるといいぞ。この辺りの近場は、ゴミやら痺海月ビリクラゲがかかりやすいからな」

「ゴミはともかく、痺海月ビリクラゲって気になる……」

「触ったら痺れるモンスターじゃ。釣っても良いことはない」


 なんかちょっと引かれてる気がする。でも未知のモンスターって気にならない? それに麻痺耐性が得られる予感もする。


「——遠くに投げても釣れることがあるから、わざわざ狙わんでいい」

「あ、そうなんだ。了解でーす」


 確かに、今日の目的は食べれるモンスターだからね。

 おじいさんに重ねて止められたから、素直に遠くに投げます。どれくらいでモンスターがかかるかな?


 ——って、そんなことを思ってたら、すぐに引かれる感覚があった。やばやば。海に引きずり込まれそう……!


「ふぎゃー! この引き、強すぎるー」

「お前さん、軽そうだからな。物理的な力が足りとらん」


 釣りには物理攻撃力が必要という疑惑が発生。でも、体力もジリジリと削られては自動回復してるみたいだから、体力勝負でもあるっぽい。


「僕、物理攻撃力上げてないよー。初期人間並み……。あ、そうだ!」


 閃きました。物理攻撃力は今どうすることもできないけど、僕にはスキルがあるじゃん。


「——飛翔フライ!」

「お!? お前さん、空飛べたのか……」


 地面を蹴って海と反対側に飛んでみました。

 飛翔フライの推進力は、魔力攻撃力と素早さに依存してるみたいで、ステータスが高くなると、飛ぶ速度が上がるみたいなんだよね。物理的な力より、僕はこっちの方が使える。


 ジリジリと海へと引かれていたのが止まった。むしろ陸地へと引っ張り返す。

 釣り糸が切れたらいやだなぁ。反動で勢いよく飛んでっちゃいそう。


「まだ!?」

「あと少しじゃぞ」


 うぐぐっ。海の方を見る余裕はないけど、結構引けてるっぽい。がーんばーるぞー!


「ぬぅっ……はうあ!?」


 急に引きが軽くなったと思ったら、ちょうど飛翔フライがきれて、顔面から砂浜に着地してしまった。気分的に痛い……。


「おお、金鰺ゴールデンアジじゃないか。初めてにしては筋がいいぞ!」


 なんか褒められた。

 僕と一緒に砂浜に転がってる魚系モンスターは、元気いっぱいにビチビチしてる。鮮度いいね。僕の頭くらいのサイズがあって、食べごたえありそう。


 ……それ以上に気になるのが、めちゃくちゃ金色ってことだけど。金貨かな、って思うくらいキラッとしてる。


——————

金鰺ゴールデンアジ

 砂浜から釣れるモンスター。金色に輝いた姿は【真鰺リアルアジ】の中でも最高峰に美しい。海の中では矢のような勢いで泳いで突進してくる。脂がのっていて美味しい。得意属性【火】苦手属性【風】

——————


 鑑定したら、バトルした場合の情報まで出てきた。海に潜ってたら、こいつが突進してくるんですね。怖い。

 まぁ、今は関係ないので、美味しいという情報さえ得られたならオッケー。


 真鰺リアルアジっていうモンスターの一種らしいけど、『まあじ』じゃなくて『リアルアジ』って読ませるセンス、どうなんですかね、運営さん? 何がリアルなの? 現実のアジそっくりってこと?


 いろいろ疑問は出てくるけど、釣りを続けるぞー。

 連れた金鰺ゴールデンアジをアイテムボックスにしまおうとしたら、おじいさんにバケツを差し出された。


「そのまま入れたら、すぐいっぱいになってしまうだろう。モンスターの一種類でアイテムボックスの一枠を使ってしもうたらもったいない。バケツに入れときゃ、数種類でも一枠で済むぞ」

「マジか。すごい裏技を聞いちゃった」


 バケツには魚系モンスターが十匹まで入るんだって。しかも大きさ問わず。だから釣具屋さんにバケツとかクーラーボックスとかがたくさん売ってたのか。


 これって、薬草とかにも使えるのかな?

 おじいさんに聞いてみたら、まとめて一枠に突っ込めるものは他にもあるらしい。薬草は麻袋に入れたら、品質に関係なくアイテムボックスの一枠にしまえるんだって。収納スペースの確保に便利だね。


「これ、リリたちにも教えてあげよう」


 やることリストにメモしておいて、釣り再開。次のモンスターはなにかな?


 でも、しばらく待ってみても、全然かからないんだけど!?


「釣りは待つのも大切だ」


 おじいさんが近くの流木に腰掛けてのんびりお茶をすすってる。

 確かに、釣りは待ち時間さえ楽しむもんだよね。これぞ、スローライフ……?


「……暇だから、お友だち呼ぼう」


 使ってなかったスキルを思い出しました。

 ——いでよ、スラリン!



******


◯NEWモンスター

金鰺ゴールデンアジ

 砂浜から釣れるモンスター。金色に輝いた姿は【真鰺リアルアジ】の中でも最高峰に美しい。海の中では矢のような勢いで泳いで突進してくる。釣り上げると、自動的に食料として分類される。脂がのっていて美味しい。得意属性【火】苦手属性【風】


真鰺リアルアジ

 砂浜から釣れるモンスター。海の中では矢のような勢いで泳いで突進してくる。釣り上げると、自動的に食料として分類される。得意属性【火】苦手属性【風】


******

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る