あいつのクモ

物書きの隠れ家

あいつとクモ

またあいつが来た。そうだ、そのたびに俺が必死こいて作った我が家は壊される。あいつは「気持ち悪い」と「俺のバイクが汚れる」と、それを持って行ってしまう。


 そこに巣を作られたくなければそのバイクとかいうやつをそのまま持っていけばいい話だ。だがあいつはご丁寧に巣を作ってくださいと言わんばかりに元の場所に戻していく。だからというわけでもないが、俺はなんとなく意固地になりこれはあいつとのどっちが先に諦めるかの勝負だと思ったのだ。


 つくる。こわされる。


 つくる。こわされる。


 つくる。こわされる。


 つくる。こわされる。


 ――—気づけばそれが日常になっていた。そしてこんな日が続いていくのだろうとさえ思いもした。だがその日はやって来る。


 雨の中いつものようにあいつが来た。またいつものように巣を壊すのだろうと私は身構えていた、があいつは雨の中視界が悪かったのだろう、気づくことなくバイクとやらにまたがった。


 そのまま未開の地に連れていかれたらたまらないと俺は飛び降り、そのまま去っていくバイクとそれにくっつく我が家を見届けた。


 それからだ。あいつとバイクは戻ってこなかった。


 どうやらあいつは俺との勝負に負けを認めたらしい。ならバイクとやらは元に戻して置いてほしかった、あれは居心地が良かったのだ。


 ……なあ、あいつはいつか戻ってくるのか?


 白旗掲げたあいつを見るまで気長に待とうと思う。

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あいつのクモ 物書きの隠れ家 @tiisana-eiyu

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