田中、普通に仕事頑張る編(邂逅編)
雪ヶ丘晴奈(雨降晴)編
第一話 俺はただの国家公務員
俺は陸軍情報局長官田中仁太郎。
48歳男。普通の国家公務員だ。
国家のため、国の情報の全てを管理している。
我が国——紀蘭は基本的には表現の自由がある。
しかし、国防や国の治安に関することには表現の自由はなく徹底的に調べ、解決する。
陸軍情報局の役割はそれである。
その役割を邪魔されないように情報局の長官には上記のような権力を与えられるのだ。
しかし、職業柄なので仕方がないとは言えやはり国民からは嫌われるものだ。(同時に恐れられてもいる)
現に記者会見中に卵を投げつけられたこともあるしゴキブリを家の周りに撒かれたこともある。
軍学校での訓練よりはメンタルへのダメージは少ないが毎回やられるとさすがにしんどい。
そんな俺の心情を知ってか情報局の属する国防省のNo.2である佐須太郎事務次官から正体を隠し町の中に身を隠しそこで仕事をしろと言われた。
情報局の建物の中でやればいいのでは?と言ったのだがテロで狙われる可能性もあるから情報局の建物では仕事をしてはいけないらしい。
そんなこんなで正体を隠し首都圏から少し離れた鬼佐市の住宅街のある家を買ってそこで仕事をしたり生活したりしたが全く家から出ないため隣人からはニートだと思われていた。
…ま、まあそんなふうに思われることぐらい軍学校での訓練を乗り越えた俺には屁でもないさ。
そして俺は今日も仕事をする。
今日はある人気VTuverの配信を確認する。
雨降晴「こんあめ~!雨と晴の妖精、雨降晴です!よろしくお願いしまーす!」
—————————
•こんあめ
•こんあめ。今日も可愛い!!
•こんあめ~!
•今日は何するんだ?
•好きなたけのこの里教えてください。
•↑たけのこの里とかw邪道だろw
•は?
•は?
•喧嘩すな
——————————-
雨降晴。
登録者135万人の人気VTuverである。
俺と違ってとても愛されている名門私立校の制服に似た服を着たオレンジ色の髪の元気な女の子である。
「俺もこんな人気者になりたかったな…。」
俺は学生時代勉強以外に取り柄がなく友達も少なかった。
だから雨降晴が少し羨ましい。
「おっと、気を抜いてる場合じゃない。仕事しないと。」
俺は画面に集中する。
配信が終わりに近づいたところで、この子の配信に過激思想や煽動がないことを確認しコメントにチェックと打つ。
「チェック…と。」
これで彼女も、彼女のファン(通称雨晴男)も情報局に安全な配信者だと認められたと喜ぶだろう。
「喜ぶ姿が想像できるな。」
そして俺は配信を閉じ腹が減ったのでインスタントラーメンを食べるべくお湯の準備をし始めた。
俺は料理ができないのである。
「しっかりとした料理を食べたのはいつだろうか…。まあいいか。」
そして俺はお湯が沸いたのを確認し、ラーメンにお湯を注ぎ3分待つ。
自分がコメントした配信がどうなっているかも知らずに——。
【雨降春視点】
その日はいつもと変わらない配信だった。
いつも通りのあいさつをし、最近流行っている『cat&dog online』をプレイし、ファンの皆とワイワイと話しながら進め三時間経ったところでゲームをやめ最後の挨拶をした。
全てが順調に終わるはずだった。
「それでは!みんな、さよあめ~!」
私は最後の挨拶をする。ファンの皆も返してくれる。
——————
•さよあめ!
•今日の配信も面白かった!さよあめ!
•次も楽しみ!
•今日も可愛かった!さよあめ!
——————-
(終わった~………)
私はぐぅ~と腕を伸ばし配信を切ろうとする。
その時、コメント欄に私の人生を変えるコメントが表示された。
———————
陸軍情報局☑︎/チェック。
•さよあめ!
•さよあめ!
•………え?
•嘘やろ?
•あっ……
———————-
私は背筋に冷や汗をかいた。
(やばいやばいやばい)
私がなぜここまで焦るか。
それは情報局にコメントを打たれた配信者は過激思想持ちとして認識されている…という噂があるからだ。
実際に過去に打たれた配信者は皆突然失踪している。噂の証拠には十分である。
(私…、失踪しちゃうの…?)
田舎から上京し、なんとかマラコンサート(VTuver運営会社)になんとか入り三年頑張り続け今では135万人もの登録者を持つ配信者となった。
田舎では地味な少女で内気だったのにキャラを作って頑張ってここまで来れた。会社からも期待されておりまさにこれからというところなのに…。
今までのその努力が全部無駄になると思うと涙が出てくる。私は急いで配信を切る。
「じゃ、じゃあみんな…。また次の配信で…。」
配信を切り、私はすぐにベッドに入り寝ようとした。
風呂に入ってないけど風呂に入る気がしなかった。
(私…どうなっちゃうのかな。)
そう不安に思いながら私は目を瞑った。
外では雨がザーザー降っていた。
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