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三月の中頃。天気は晴れ。少しの風。
遠野東中学校の最後の三年生の一年がすぎて、……卒業式の日。
遠野雨は卒業証書を片手に、中学校の正門前に咲く、美しい桜の花びらをつけた木々の姿を眺めていた。
雨はそこで、美しい桜の花びらを見ながら、自分の今までの十五年間の生活のことを、なんとなく振り返っていた。
お父さんのこと。
姉の雪のこと。
……そして、お母さんのこと。
みんなのこと。
親友の愛のこと。瞳のこと。
……もう直ぐ、この街からいなくなってしまう、水瀬守くんのこと。
雨はいろんなことに感謝をしていた。いろんな人を尊敬していた。なにもできない、ただ甘えているだけの未熟な自分を感じて、もっと、もっと頑張ろうと思ったりした。
そこまで考えて、雨はなんだか自分が、まるで模範的な、今日、中学校を卒業する卒業生の代表のような気がして、ちょっとおかしくて、思わず、くすっと笑ってしまった。
雨は真面目でおとなしくて、先生たちから問題もないと言われて、成績も友達関係も、先生との関係もそれほど悪くなるくて、よくいい子だね、と褒められることが多いのだけど、自分がそんなにいい子ではないということは、雨自身が一番よくわかっていることだった。(なにせ十五年間も、私は私自身と、ずっと一緒に暮らしているのだから)
だけど、雨は今(もちろん、強制ではなくて)、心からいろんなことに感謝をして、いろんな人を尊敬していた。その証拠に、雨は少しだけ泣いていた。
人に支えられて、人は大人になる。
未熟から、成熟する。
きっと、学問とは、あるいは人生とは、(そして、もしかしたら友情や恋も)そういうものなのだと雨は思った。
「雨」
後ろから声をかけられた。
それは親友の浜辺愛の言葉だった。
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