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「水瀬くん。それ、なに読んでいるの?」

「夏目漱石」

 水瀬くんは手に持っていたスマートフォンを東山くんのほうに向けた。

「水瀬くん。漱石好きなんだ。実は僕もそうなんだ。これは、……『三四郎』だね。僕は『門』が一番好きなんだけど……」

 どうやら水瀬くんと東山くんはお互いに本が好きなようで(もちろん、雨も水瀬くんが本が好き、というか夏目漱石が好き、ということは知っている。伊達に水瀬くん目当てで、学校の図書室に通い詰めたわけではない)、物静かな二人にしては、珍しく会話が弾んでいるようだった。

「ごめん。ちょっとだけ、仮眠とるね」

 愛は雨にそう言うと目をつぶって眠りについた。

「朝見先生。森川くん。なにか音楽かけてよ。楽しいやつ」

 瞳が言う。

「今、浜辺さんが仮眠とるって言ったばっかりだよ? 辻野さん、聞いてなかったの?」森川くんが後ろを見てそう言った。

「別にいいよ。音楽かけても」

 目をつぶったままで、愛は言う。

 みんな、なんだかとっても楽しそうだった。

 雨はそんなみんなの様子を観察しているだけでも、なんだかすごく楽しい気分になってくる。

 ……それにしても、天文部の部室でも思ったことだけど、水瀬くんと東山くんはその雰囲気がとても似ていると雨は思った。

 まるで兄弟のようにも思える。

 ただ東山くんは小柄なので、なんとなく水瀬くんがお兄さんで、東山くんが弟さんのような感じがする。

 そんな東山くんが聞いたら怒るかもしれないような、それなりに失礼なことを雨は頭の中で勝手に空想していた。

 すると、その東山くんが不意に雨のほうに目を向けた。

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