大月クマ『いつまでも輝く母へ~灰色の習作~』


・大月クマ『いつまでも輝く母へ~灰色の習作~』

https://kakuyomu.jp/works/16818093077894042799


 特別警邏隊のトレース少尉に、上官より「期限内で過去に盗まれた国宝の宝石を探し出せ」という名が下った。全く手掛かりのない状態だが、本件の協力者で魔法も使える国際鉄道情報部の男・ミックスは、ある場所に狙いを絞っていた。剣と魔法のあった世界で繰り広げられる、宝石をめぐる陰謀劇を描いた異世界ミステリー。

 大月さんは四月号に続いての参加です。「真新しい靴がステップ~灰色の習作~」と同じ世界観を共有した異世界ミステリーですが、今回は登場人物と世界観を一新しています。


 魔法のある異世界ですが、イメージとしては産業革命後ぐらいのヨーロッパでしょうか。交通手段として、鉄道が一般のようですし、世界中に張り巡らされている様子です。

 そして、主人公が特別警邏隊所属ということで、外交情勢がしっかりと描かれています。それが分かっていくと、この宝石が盗まれたままになっているのが、どれほど致命的なのかが明らかになり、トレース少尉の心労も察しられます。


 それから、レビューのあらすじには書かなかったのですが、宝石の名前が「いつまでも輝く母」となっています。そして、読み仮名が「メーテール」です。最初は、『銀河鉄道999』の登場人物かと思いましたが、そもそもはギリシャ語で母親のことを指す単語のようです。

 母の日だし、母に因んだタイトルにしようかーと軽く考えていたので、タイトルが宝石の名前になるとは思いもしませんでした。しかし、見れば見るほど、ぴったり名前だと思います。これが、他の国から送られてきたもの、という背景を知ると、より奥行きを感じられます。


 本作、主人公はワトソン役で、ホームズ役はミックスとなっています。冷静沈着に、物事を整理し、周囲への警戒も怠らない、探偵役にぴったりな人物です。それでいて、彼の操る魔法は……というギャップが、たまらなく魅力的でした。

 こちらは完結していますが、まだまだ裏がありそうな語り方で終わります。今作だけでも苦労人だとよくわかったトレース少尉や、何やらいろいろと顔の広そうなミックスの活躍も含めて、この先も気になる描き方でした。






















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