怪談蒐集

第1怪 手を叩く女

え？怖い話ですか？

そんなの集めてるって、あなたも物好きですね…

う〜ん…一応あるんですけど、そこまで怖くないですし、特にオチはないですよ？

それでもいいならお話しますが…？

分かりました。じゃあ、話しますね。

あれは私が中学生ぐらいの頃、友人の家に遊びに行ったんです。

その友人の家が、自宅から徒歩で30分ぐらいだったかな？

最初は普通に30分かけて行ってたんですけど、ある時近道が出来ることに気づいたんですよね。

私の家の近くって、手付かずの林みたいなのがあって、そこを抜けると住宅街に出るんですよ。

普通の道だと、その林を迂回する形になるから、林を突っ切った方が早かったんですね。

けど、昔から親に「あそこはヘビが出る」って言われたり、友人達の間でも「あそこの林は幽霊が出る」って話があったりして、なんとなく怖くて通らなかったんですよね。

ただ、中学にもなるとそういう恐怖心って薄れて、ある時試しにその林に入ってみたんです。

林の中は薄暗いですし、足場も悪いですけど、5分ぐらいしたらすぐに住宅街に出て、そこから10分ぐらいで友人の家に着くので、わりと良い道を見つけたな〜って思ってたんです。

そしてある日たまたま学校が午前授業で、荷物置いてすぐに友人の家に向かったんです。

…えぇ、あの道を通ってです。

林を出ると、いつもの住宅街に出て、そこから友人の家まで坂になってるんです。

いつもより長く遊べる、ってワクワクしながら友人の家に向かってる時、どこからか何かを叩く音が聞こえたんですよ。

…パン…パン…って。

最初は気のせいかと思ったんですけど、車も走ってなくて、辺りが静かなだから、余計にその音が目立つんです。

で、気になって周囲を見渡したんですが、誰もいないんですね。

そんな時、ふと近くのアパートから音が鳴ってるような気がして、見上げてみたんです。

…女性が立っていました。

アパートの3階ぐらいですかね。赤い服に黒いロングヘアの女性が手を叩いているんです。

彼女は前を向いて、何かうっとりしたような表情でパン…パンと手を叩いていました。

ちょうどこんな感じに…

…そうです。拍手じゃなくて、少し間を置いて思いっきり自分の手を叩いているような感じでした。

うわ〜気味悪いな〜

って思ってたら、その人と目が合っちゃって。

その瞬間、バチバチバチバチバチ！って狂ったように女性が手を叩き始めたんです。

もう怖くって、友人の家まで全力で走りました。

で、友人の家は坂の上なので、後ろを振り返るとさっき通ったアパートが見えるんですね。

自分を安心させたかった、ってのもあって振り返ったんですよ。

…まだあの女性が立っていました。

音は聞こえないんですが、遠目でも分かるぐらい激しく手を叩いていて、急いで友人を呼び出して家の中に入りました。

友人にここに来るまでに起きたことを説明すると、その友人面白がって「見てくる」って言うんですね。

私は止めたんですが、「1人でも見に行く」って聞かなくて、結局私を置いて友人はその家に向かって行ったんです。

それから20分ぐらいゲームして時間を潰してると、友人が息を切らして帰ってきたんです。

…「マジでいた」ってちょっと嬉しそうな様子で。

…大まかな特徴は同じなんですが、友人曰く「2階に立ってて、自分と目が合った時に下に降りる素振りを見せた」って言うんです。それで走って戻ってきたらしいです。

結局その日は怖くて、帰りは親に迎えに来てもらいました。

それ以来、その近道は通っていません。

…これが私の体験した怖い話です。

たまに飲みの席とかで話すと「怖いの起きるのは林じゃないんかい！」って笑われるんですよね。はは…

…え？その友人ですか？

そういえば、中学以来会ってないですね。

彼、急に引っ越しちゃったんですよ。

仲良かったのに何も言わず引っ越しちゃって、ちょっと寂しかったですね…

今頃何してるのかな〜ってたまに気になりますね。