第三宇宙速度 —鳶田夜凪
筑駒文藝部
本文
第三宇宙速度
鳶田夜凪
背伸びして入った純喫茶の
ホットコーヒーが冷たかった。
ネイルの代わりに地味な手袋を買って
太い指を誤魔化した。
丁寧にセットしたはずの前髪は
ぴょんぴょんと跳ねていた。
何もかもうまく行かない日は
あなたの好きな人のことを考えている
何もかもうまく行っても
あなたは私の中に虚像を結んだまま
私の惨めな憧憬は光速を超えない
ならばせめて
第三宇宙速度で家に帰ろう
それは想いを脱出するための速度だ
猫が毛布に執着するように
私もあなたに
ああ、まだ、恋をしている。
第三宇宙速度 —鳶田夜凪 筑駒文藝部 @tk_bungei
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