再・情動 —根之尾 鵙太

筑駒文藝部

プロローグ

プロローグ

 縦横無尽に張り巡らされた鉄骨、奇妙に幾重にも重なる照明たちの隊伍。頭上のキャットウォークには、綱渡りのように、一歩一歩を確かめるように行き交う人の影。限りない冷たさを放つこの舞台は、私をその奥底の、深い深い永遠の暗闇へといざなっているかのようだ。

 

 無機質。

 そう、ここ舞台は果てしなく無機質だ。のいる、温もりに満ちた空間とはまるで違う。目が痛くなるような光を全身に受けても、本当のところは真っ暗だ。

 世界はとことん、あらかじめそういうふうにできている。もっとも、そのことに私が気付いたのも、つい最近のことなのだけど。

 だから、誰一人として、私の本当の姿を、輝きを見ることはできない。見えているようでも、何も見えていない。


 そう、たった一人――を除いては。


 虚ろな視線で満たされた広い広い空洞の中に、ただ一つ、スポットライトに照らされた席がある。

 五歳くらいの、幼い女の子。その体躯は、大人用の大きな座席の上に、人形のようにぽつねんと置かれている。

 でも、その目は、スポットライトに照らされて燦然と輝いているその両の目は、たしかに私の目をまっすぐ見つめていた。


 から私が歩いてきた道、そのすべてが運命づけられていたのだとしても。輝いて見えたすべてのことが、奇跡が、気持ちが、誰かの手の中にあるものだったのだとしても。

 

 私は、私自身のためにここに立っているのだ。

 それだけは、他の誰にも変えられないことだ。


 吐いた息の音が、吸い込まれるように消えていった。

 一歩、前に進む。

 照らされているのは、だけだ。

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