夢幻列車

@tsutanai_kouta

第1話


この部屋に越してきてから、同じ夢を見る。窓のすぐそばを列車が通過する夢だ。

その轟音と振動で飛び起きてしまうが、もちろん轟音も振動も現実ではない。


毎夜、そんな悪夢を見てるのだから、当然疲れはとれない。大学の講義中に居眠りしてしまうことが増えたし、バイトでつまらないミスも増えた。



今夜も列車の夢に飛び起きた─が、目覚めたはずなのに部屋の床が揺れている。

極度の疲労による幻覚かとも思ったが、窓枠が細かく揺れてガタガタと鳴ってるのに気づいた。


地震か?と思った瞬間、窓の外を強烈な光が横切る。轟音と振動が最高潮に高まり、光の通過と同時に、それらは掻き消えた。


俺は布団の上に崩れるように倒れ込み、そのまま気を失ったかのように深い眠りについた。


目を覚ますと丸一日経っていた。

学校もバイトも、すっ飛ばして眠ってしまったが、久しぶりに体が軽い。

だが、気持ちは重いままだ。何故か?それは遠くから列車の轟音が近づくのが分かったから。窓枠もガタガタ鳴り始めた。


俺は意を決して窓に身を寄せた。

そして窓が強い光が放ったタイミングで勢いよくカーテンを開けた──。



 *********


数日後、連絡がつかなくなった青年の部屋を友人が訪れた。管理人と共に部屋に入ると誰もおらず、窓は開け放たれていた。

窓に近づいた友人は、“あるもの”を発見して顔をゆがめた。

それは木製の窓枠に食い込んだ数枚の爪だった。やがて窓枠は細かく震えだし食い込んでいた爪がポトリと床に落ちる。次第に大きくなる窓枠の振動と呼応するように列車の轟音が近づいてきた。




 ─了─

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