3ー3

PM 9:00 如月邸


 明日香と共に、邸に帰宅する。だが、帰宅して早々に、私は正座させられた。


「いったい、どこまで行ってたんですか!?」


 ラスティアの怒号に、私は何も言えなくなる。無駄に反論すると、余計ラスティアの機嫌を損ねるので、私は何も言えなくなるのだ。

 その上、彼女からは、冷たい空気を感じるのでそれが余計に圧を感じる。

 こうなってしまっては、私もぐうの音も出ない。ただたんと、説教を受けるしか無いのだ。


「まぁまぁ。こいつだって別に遠出した訳じゃ無いんだし、その辺にしたら?」


「明日香さん!! いくら姉さんと親密だかと言って、好意混同はやめてください!!」


 ラスティアの声に、明日香も震える。まるで、野良猫がボス猫に手名付けられてる様だ。


「ごめんよ。例の事件を終わらせようとしたら、あっさり死んでしまった」


「またそんな無茶ばかりして……。もう、少しは私も頼ってよ」


 ラスティアは、私を抱擁する。ラスティアの胸から大きな何かが顔にあたり、少し不貞腐れる。


「わかったから、抱かないでって」


「何も、そう怒らずとも良かったのに。まぁ、これで隠し事はなしだね」


 明日香がそう言うので、私は2人を事務所に案内する。扉を開け、そして電気をつける。

 それを見ていた2人は、驚愕をする。


「こんなに調べてたの?」


「あぁ。最初は、ただの心中だと思っていた。だけど、調べていくほど、この事件は自殺を装った連続殺人と化していたんだ。魔術を用いてのね。

 それが、この円形さ。まだ150mまでしか測ってないが、いずれも深夜2時と夕方6時に発生している。それも、ラフィラから半径50mずつにだ。

 自殺者ひがいしゃは、10代の女性。共通するのは、前日までは、至って普通の生活をしていた。だが、奴に魅入られて、自殺ころされた。

 そして、今も生き霊となって奴の周りに浮いているんだ。まるで、母に甘えたい雛鳥のようにね」


「それじゃ、自殺した少女達は、自分で死んだんじゃなく、霊によって殺されたってこと?」


「そう言うこと。だが、さらにタチが悪いことに、あの霊は魔術師の霊と混同している。そのせいで、他の霊たちも魔力と魂が混じり合っているんだ。

 その為には、霊と魔力を引き剥がす必要がある。実際、グラムとティルフィングでは、それが出来なかった。これらは、生物ではない物を斬るが、魂は別だ。これに関しては、不利と言えるだろう」


 私の言葉に、ラスティアは落胆する。だが、1人だけ考えが違う人物がいた。


「なら、魔力のみを取ることはできる? 死んだ少女の霊が魔力と混同しているのなら、それを引き剥がせばいけるんじゃない?」


「それができればいいが。――――――――そうか、魔力のみを取り除けば良いのか」


 明日香の意見に、私は思いつく。グラムもティルフィングもダメなら、あれを使う他にないのか。


「そう。君が持つ魔具で、それが可能にしてるのがある。簡単なことじゃないか。君は根底に囚われすぎたんだよ。答えは意外なほどシンプル単純なものさ」


「はぁ……。そうだった。今回が特殊すぎて、それを忘れてたよ。なら、かくなる上は、ダーインスレイヴを使う他にないな」


「そうだよ。グラムもティルフィングも『魔素マナ』と『色素エレメント』には有効だけど、生物には不利だ。

 なら、それらを斬ることができるダーインスレイヴなら、話は別さ。私の魔具も、ラスティアの氷花もそれができない以上、ダーインスレイヴが最後の一手と言っていいね。

 今回の相手がただの霊体なら、魔具という手段は使えないだろうけど、魔力と混じり合ってるのなら、ダーインスレイヴはうってつけだね」


「なるほど。でも、それじゃただ斬れるだけでも、意味がないのでは? 魔力と混同している霊なら、弱点を見つける必要がありますよ?」


 心配するラスティア。だが、その心配をする必要はない。私には、まだ一つ隠し種があるのだから。


「大丈夫でしょう? それに、私たちは私たちでやることがあるんでしょう?」


 明日香がそういうと、私は『仮面の魔女ジャンヌ』から貰った紙切れを渡す。


「これは?」


「とある患者のいる病院の住所だ。あれがいうに、その患者こそが被害者かもしれない」


「信用できないって、今はそういうのは無しだね。なら、あの亡霊は君まかせて、私たちはその患者のところに行けば良いのね?」


「あぁ。それで頼む。出発は、11時半にしよう」


 私の声に、2人は頷く。時刻は、夜の10時だ。それまでに支度をする時間はまだある。

 私たちは、それぞれの支度を始めた。

 2人が去るのを見届け、ドアを開けて一服をする。今宵は、半月だ。月が半分かけ、次第にかけていく。

 それを見届けながら、私は煙草を深々と吸う。

 だが、そうしていると、頭の中に声が聞こえてきた。


『ほう? やはり、あれを殺すのか? それは懸命なことだ。だが、お前は本元を自死させることになるぞ?』


「何が言いたい?」


『単純なことよ。お前のこれから行うことは、罪の認識の与えることにもなり得ようよ』


「罪の認識? それがどうした?」


 頭の中から、奴の声が聞こえる。だが、奴はまたもや不可解なことを言い出す。


『だが、あれを止めねば、本体は異形となろう。それを可能とするのは、お前だけだ』


「その為には、この眼を使うしかない。そうでなきゃ行けないんだな」


『いかにも。ではどうする? 結末は悲観なものでも、それでもやるか?』


「あぁ。悲観的なものになってもいい。これ以上の犠牲を無くせれるなら、私は非情にでもなるさ」


 私の問いに、奴はにやける。どうやら、私に最後の選択を与えたかったらしい。


『良いだろう。では、わたしはここで見させてもらう。お前が選んだ結末をな』


 そういい、奴の声が聞こえる。時刻は、11時半になる。事務所の扉が開き、2人がやってくる。


「時間だよ。姉さん」


「あぁ。行こうか」


 私の声に、2人は頷く。明日香とラスティアは車に乗るが、私は乗らないで2人を見送る。


「それじゃ、私たちは病院に行くから。姉さんも気をつけてね」


「うん。それでは、頼んだよ」


 ラスティアがエンジンをかけ、車は出発する。それを見送った私は、歩いてすすきのに向かう。

 第三グリーンビルに着き、ビルの裏口から入る。ここを入る許可は、下川さんに事前に許可をもらってるので、管理会社の人は特に何も言わずに通してくれてた。

 屋上へ到着すると、電光看板を登り、ラフィラの方を見る。すると、やはりというべきか奴が、亡霊が待っていた。


「よう、亡霊共。この間の借りを返しに来たぞ」


 私の言葉に、奴は笑みを浮かべる。だが、今度は違う。

 こうして、私は自殺しなくなった少女達のために、心を『魔女』になるのであった。

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