第1節 俯瞰を彷徨う亡霊
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第1節 俯瞰を彷徨う亡霊
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AM 8:45 探偵事務所 如月
北海道 札幌市。自然と都市部が混じり合う、世界的にも珍しい構図をするこの街で、ある魔術師が探偵業を営んでいた。
果たして、その魔術師とは一体誰か。私である。久々に気持ちよく睡眠をしていたようだ。
体を伸ばし、ベッドから起き上がる。あくびをしながら、シャワー室に向かう。私はどちらかというと、朝にシャワーを浴びたい派の人間だ。
黒のワイシャツを脱ぎ、シャワーを浴びる。腰まで長い髪にシャンプーをかけ、それをシャワーで洗い流す。
シャワーから上がり、髪をタオルで拭く。そして、鏡に映る自分を眺める。目の前に映る自分の姿に、何故か悲壮感を感じていた。
バスタオルを体に巻き、リビングに向かう。リビングに入ると、テレビが流れていた。
「おはよう。また自殺者が出たって」
「おはよう、明日香。また出たのか? 朝から聞くニュースではないね」
リビングのソファーで横になっていた明日香が、テレビを見ながら挨拶をする。どうやら、朝のニュースを見ていたようだ。
「姉さん。バスタオルだけ着てリビングに入らないでって言ってるでしょ?」
「すまない。うっかりしてたよ」
皿を洗いながら、ラスティアが私に注意する。その片手間で、私にコーヒーを用意した。
私は、そのコーヒーを飲みながら、ニュースを見る。どうやら、またすすきので投身自殺をした遺体が発見されたそうだ。
今朝のニュースで出てるからに、深夜ごろに発見されたのだろう。
「今回は深夜か。1件目と同様の時間帯みたいだ」
「2件目は、2日前の夕方だったね。なんだか変な感じだね」
「あぁ、それも10代半ばの女性が自殺しているらしい。先の一件と同様だ。このご時世に嫌気が刺したか、はたまた幼くして人生に嫌になったのかのどちらかだ」
「そんなもったいないことして、遺された人達はどうなるのかわからないのかね?」
「さぁ? 私だったら、とてもいい気分じゃないよ。それに、誰だって死なれたら、悲しいものさ」
私は、コーヒーを飲みながら、自殺について話す。その人の心情がどうあれ、まだ一歩踏み留められただろうと思えてしまう。
だが、3件の自殺には、不可解な部分が多いのは確かだ。それを確かめるためには、まずは『根幹』を突き止める必要がある。
そのためには、まずは店を開かないといけない。
「そろそろ時間だね」
私は、コーヒーを飲み干す。そして、ラスティアと共に部屋に戻る。
巻いているバスタオルを取り、ラスティアが用意した下着を着る。その間に、ラスティアは私の服を用意していたので、それを下着の上に着る。
ラスティアも着替え終えると、私たちは事務所に向かう。
「んじゃ、私は街を見回りに行くよ」
明日香は、そういい、屋敷を出る。私は明日香を見送ると、事務所に入っていく。
事務所に入ると、PCを起動させ、引き出しから依頼されている仕事の資料をデスクの上に出す。
ラスティアは、昨日の収支を計算しつつ、魔術院から来ている書類の整理をしている。
だが、それを数時間も続くわけにもいかず、預かっている魔具の鑑定を行う。
「はぁ。どれもこれも偽物だ。全部ブラックマーケットで出回ってるような贋作だ」
「姉さん。どうするのそれ?」
「こっちで処分するしかないよ。それに、騙し取られたもんだから、その分の金額も用意しておかないとね」
私は、依頼者に渡す買取金を用意する。金額を精査し、準備をしていると電話がかかる。
ラスティアが受話器に手に取り、応答する。
しばらく電話に出ていると、メモを取る。時間を聞いてるようなので、予約の受付のようだ。そして、受話器を置く。
「姉さん。12時に道警の方が来店するって」
「道警? 一体、何の様だろう」
「私にもさっぱりだけど、とにかく姉さんにお会いしたいって」
私は買取金の整理を終え、それを金庫にしまう。時刻はまだ11時だ。一息をつけるために、私は煙草に火をつけ、一服する。
まだ半年しか経っていないのに、また警察から依頼を受けることになりそうとは思ってもいない。
落ち着いているとはいえ、まだ世間体的は例のウィルスが未だに猛威を振るっている。いつまた規制されるのかわからない不安に駆られながら、人々は日々を過ごす。
ここだってそうだ。接待する時は、渋々マスクをしないと、営業を認めてくれないのだから。
一服を終え、PCを触る。例の自殺について調べてると、ある掲示板を見つける。掲示板を見ていると、気になる書き込みを見つけた。
「自殺者が出る時間帯は、大体深夜2時と夕方6時が大半らしい? どういうことだ?」
その書き込みに、私は何かを感じる。違和感に近い不可解を、その書き込みから感じてしまった様だ。
掲示板を眺めていると、PCの時間が12時を迎えようとしている。ラスティアは、コーヒーを淹れながらその時を待つ。
「姉さん。そろそろ時間だよ」
「あぁ、わかってる」
古時計の鐘が鳴り響く。そして、PCの画面を閉じ、ソファーに座る。
こうして、私はコーヒーを飲みながら、客を待つのだった。
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