魔女と俯瞰を彷徨う亡霊

nashlica

プロローグ

 例えば、私が鳥だったとする。鳥は、両翼を羽ばたかせ、鳥の見る『景色』を眺めるだろう。

 それはきっと、私が味わえないものになるだろう。それはきっと、空を駆けるような『景色』だ。


 例えば、私が虫だったとする。虫は、羽を羽ばたかせ、虫の見る『景色』を見るだろう。

 だけど、虫は嫌。虫は、みんなに嫌われものだからだ。虫は、その容姿からみんな遠ざけてしまうのだから。


 例えば、私が幽霊だったとする。幽霊は、その人がこの世に残した未練の塊だ。でも、見える景色は人と同じだ。

 でも、人とは違い、空から見る景色は、凄いものだ。それは、まるで、身体から離れた時のように――――――



 ――――――それは、まさしく幻想だった。空に憧れた雛が、無慈悲に喰われる如く。


 脱皮したばかりの成虫が、天敵に捕食されるが如く。

 そして、空を夢見た人間が、飛び立ってもすぐに地に落ちるが如く


俯瞰ふかん』。それは、人の脳が『風景』と認識したもの。人が『風景』を視認し、それは『記憶した』情景に過ぎない。

 そう。例え、死んだとしても、それは変わらない。霊というのは、『俯瞰』に縛られ、この世に残り続ける残留に過ぎない。


 それを嘲笑い、眺めるものもいる。その『亡霊かのじょ』は、まるで死んだものを愚かしく思うように。

 そして、霊たちは『亡霊かのじょ』の元に集う。

 時刻は丑三つ時午前2時。狐が、血で濡れた足を歩かせ、何処かへと行く。静寂を知らぬすすきのの街に、今日もまた『俯瞰』に誘われ、ビルの上から落ちた『少女ひな』が、血の溜まりの上で横に倒れる。


 『彼女ひな』は飛び立ち、『亡霊ははどり』の元へと向かう。それはまるで、成熟した雛が、空へ旅立つように『抜け殻にくたい』から飛び立って逝った。


 そして、『亡霊』はまたどこかへと彷徨っていく。酒と歓喜で溢れかえる街は、その遺体により、悲鳴とサイレンが鳴り響くのであった。

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