第35話 レッツメイクケンジャノサンド ③
こんにちは。私はエミリア・ベーカー。見習い調術師です。
少々不穏な疑惑が持ち上がっていたところに、間の悪いアイクさんが入ってきました。
「記憶を都合よく消せるパンとかないですかね」
「待ちたまえ!!!!」
今度レシピを考えておきましょう。
「安心したまえ!!!! 今聞いた秘密は守る!!!!」
「そのわりに声がデカいんですよ! ひそひそ話なんて出来なくてすぐ漏れるでしょう!」
「生まれつきだ!! 恨むなら俺をそう産んだ両親を恨んでくれ!!」
「末裔から始祖までくまなく恨みますよ!」
そう大声で言うなり、アイクさんはぐっと拳を握りしめて上腕二頭筋をぴくぴくとさせました。この人、声だけでなく動きまでうるさい。
「つまり、貴女たちの友人が違法魔術を使用する疑いがあると!?!? 誤った道に進みそうな時に止めてやるのが真の友というものだよ!!!! アマリくんといったね!!!! 僕も気に留めておこう!!!!」
「あ、ちょっと!」
今度は大臀筋をぴくぴくとさせながら、声デカ男さんは走って去ってしまいました。とりあえず、声が小さくなるパン、考えておきましょう。
***
数日後。討伐から帰ってきたジャスくんと調術所のイートインスペースで声が小さくなるボソボソ鈴カステラを試食すると──
「(ね、ちょい変な噂たってんだよね。このごろのヌシ多発にアマリ様が関与してるって噂)」
まろやかでシンプルな甘みがたまらない。かなり耳元まで近づいて話さないと聞こえなくて少しくすぐったいというのはさておき。
「(さっそく漏れて尾ひれが付いてます!)」
時は既に遅く、噂が広まり嫌な事態になっているようでした。
「(ほらアマリ様って魔物好きじゃん? 本人隠してるけどバレバレで。それで噂の的なんよ)」
なんでも、とある魔物愛好家が魔法を使って魔物を巨大化させて楽しんでいるというのが、このたびのヌシ多発事件のいきさつだと考えられているそうで。
「(ええ!? あんなに優しい人が被害の出る事件に関与しておいて平気な顔でいられるわけがないのに!)」
「(俺もそう思う。真面目なアマリ様がそんな愉快犯するわけないじゃん? 理不尽な逆境、変わってあげたみマックス)」
「(あれ? じゃあ賢者の石の話は関係ないんですね)」
ひそひそとお話をしていると、ちょうどその時、コンコンコンと礼儀正しく扉をノックする音が聞こえました。
「こんにちは。営業時間外にごめんね。青ポーションとか、回復系のパンが余っていたら買いたいんだけど……」
扉を開けると、お疲れ気味のアマリさんがやってきました。
「(アマリさん! 大丈夫でしたか?)」
「え? え? ごめん、なんて言った?」
鈴カステラの効能が続いていて伝わらず、耳元でお話をします。
「(すみません)」
「ひゃ……」
するとアマリさん、耳が赤くなっていて、相当耳くすぐったがりのご様子。
「(今声が小さくなる魔道具の実験中でして)」
「……うん」
びくっとして大変可愛らしい。ジーン先生これ知ってるのかな、絶対教えてあげない。
「(エマっち、話してる内容聞こえないから側から見ると何かイケナイこと話してるみたいに見えんだけど。俺、百合に挟まって処されたい願望あんだよね)」
「(せいや!)」
すみません、推しの可愛らしさで脱線しました。何か言ってきた人には手刀をお見舞いし、お口に聞き耳パンの耳を大量に詰め込みます。
「(噂、大丈夫でしたか?)」
「(うん、まあ。もともと私のような中途半端な立場の人間は、妙な噂の的になりやすいんだ。慣れてるから大丈夫)」
こちらに合わせてなんとなくアマリさんもヒソヒソ声で話してくださいます。上品な鈴のような声が素敵です。
そういえば、ジーン先生のお話によると、アマリさんは王族の愛人の子ということらしく。今までも散々、謂れのない悪い噂をされてきたのでしょう。
「(こういう時、絶対的に信じていてくれる味方と話すと回復するね)」
「(全然大丈夫じゃなさそう……)」
眉の下がった笑顔です。こういう儚い笑顔も素敵ですが、私はもっと自然に溢れる明るい笑顔のアマリさんが好きです。えいやとアマリさんに鈴カステラをあげると、その不意打ちの甘みに少しだけ自然な笑顔を見ることができました。
「(……王宮戻りたくない……)」
そしてか細い声でそう聞こえました。
お可哀想に。
「(戻らずにここで働きませんか? 毎日私のパンを食べて暮らしませんか?)」
「(え、嘘、聞こえて……!? 私声に出してた!?)」
「(なんてね、私は何があってもアマリさんの味方ですよ。ジーン先生も、ジャスくんもきっとそうです)」
ぎゅうっとハグをしました。
「(エマ……)」
私は知っています。アマリさんは絶対にそんなことをしない。魔物の暴走を促すなんてこと、しない。
だって、とても優しいから。
優しいから、大好きで、信じています。
そして、優しいから、何か大きなことに巻き込まれてはいないかと、心配でたまらないのです。
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