第16話 レッツメイク????

 こんばんは。私はエミリア・ベーカー。モテ期到来の十四歳。見習い調術師です。腹黒近侍さんは去り、あとはただただ舞踏会を満喫するのみです。


 さて、それからしばらく経過。

 たっぷりと満喫しました。今何曲目でしょうか?

「……ねえ、踊る相手変わらないなら一曲で良くないですか?」

「そう言わずもう一曲」

 流石に疲れました。そして飽きました。そろそろラーツ麦やその他野生種の麦を採取しに出かけたいところです。

「私ダンス下手でしょう?」

「それが良いんじゃん」

 麗しい音楽に合わせ、ジャスくんの足を踏むこと計七回。こんな中途半端に下手くそなダンスに注目が集まることもないかと思っていました。

 しかし、意外や意外、普通に踊っていても、やたらと視線を感じます。

 ──主にご令嬢の皆様からの。

『ねえ、さっきからあの赤髪の男の子、良くない?』

『馬鹿あんた、超ド変態だって噂知らないの?』

『みんな知ってますわよ。それでも良いんですの。むしろそこが良いんですのよ』

 ヒソヒソ、ヒソヒソと、噂話が右から左へ。

 ああ、そうか。顔は良いんですよねこの変人。

「モテるんですね、ジャスくん」

「そうそう、まあね、結構面倒ごとに巻き込まれがちで……もう最高!」

 おっと失礼、八回目の足踏みです。

「もっと!!」

 本当に残念な美形です。

「私のこと誘ったの、ひょっしなくても虫除け?」

「そう思う?」

 むう。

 別に良いんですけどね。この間の素材採取の成果を考えれば、約束の護衛料だけでなくこれくらいのお礼はしても良いでしょう。

 別に良いんですけどね。こんなにふわふわキュートでくりくり可愛い愛されキャラな私をそういう目的で誘っても。別に──

「もし」

 と、ちょっぴり拗ねていると、背後から声がかかります。

「美しきご令嬢。拙者と踊ってくれませぬか?」

 見知らぬ美少年のご登場です。サラサラの藍色の髪に、金色の瞳が美しい。

「え」

「ひと目見て、天啓を受けて候」

 どうやら、ダンスのお誘いの模様。動揺していると、ジャスくんに手を引かれます。

「ねえ、待って、エマっち。今日は俺とダンスバトルするんしょ?」

 あら?

 理解が追いつかず、呆気にとられます。

「ぬ、先約ありとな? 無粋であった」

 サラサラ青髪美少年は案外あっさりと引き下がっていきました。なんだったの?

「えーと、ジャスくん?」

「怒られ発生する?」

「しません」

 本当にめちゃくちゃ残念な美形です。びっくりして損した。

「いや違くてさ、俺普通にエマっちのこと結構好きなんだけど」

「はいはいそうですか」

 この上なく残念な美形の言うことを右から左へ受け流します。

「勝ち目のない相手とか勝てるかどうかギリギリの強い相手と戦うのってワクワクすんじゃん?」

「それ恋愛観にも適応されるんです?」

 またその話かと思っていると、ふっとジャスくんの纏うふざけた空気が真剣なものに変わりました。

「エマっち、俺と魔物討伐トップ目指さん?」

「はい?」

 突然の提案すぎてちょっと話についていけません。

「私、冒険者じゃないんですけど」

「うん。でもきっと最強になれる魔道具を作れる。今日の魔道具を見てそう思った」

 ジャスくんの綺麗なアメジストの瞳がじいっとこちらを映します。

「日常に役立つほっこり魔道具も良いけどさ、アマリ様やお師匠に負けない、最強の魔道具作るのも熱くない?」

 呆然としていると、舞踏会の終わりを知らせる最後の曲が流れます。長かった春の感謝祭もついに終わりを迎えようとしています。

「憧れの人より、師匠より、俺を選んでくれたら超嬉しい」

 突然、恭しく跪かれて、右手にキスを落とされます。

「なっ……」

 からの親指を立てての提案。

「最強の攻撃パンを作って、俺と戦おうよ、エマっち!」

 なんだかとんでもない爆弾を落とされて、お祭りは幕を閉じました。

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