SUL-51 人間に存在しない感情「koi」を引き起こす病。
磨白
SUL-51 人間に存在しない感情「koi」を引き起こす病。
最近の研究で明らかになったことだが、私達が感じていた「恋」という感情は一種の病気らしい。
発症した人間は、身近にいる人を好きになり、自分よりもその人のことを優先したい、という生物の生存本能とは真逆の異質な反応を引き起こす。
また、好きな人の近くにいると心拍数の増加や、体温の上昇、胸の痛みなど、体に多くの異常をもたらし、好きな人に「愛されたい」という感情を抱くことになる。
これは人格や感情すら操作してしまう、史上最悪と言ってもいい病気である。
にも関わらず、長い間人類はこの病気に気が付かず、望んでもいない感情を抱き続けることになったのである。
政府はこの事を重く受け止め、ウイルスに対する特効薬を作ることを直ちに発表。
予防方法として、SUL-51を防ぐことの出来る機械を開発した。
これを所有している間、周りのSUL-51は劇的に減少し、人間の免疫によって防げるようになるという優れものであった。
人間は「恋」という病を克服し、人間の個人としての尊厳を取り戻したのである。
それからというもの、自分にしっかりと時間を使うことが出来るようになった人類はQOLが劇的に向上し、自殺率も大幅に激減した。
そんな世界になっても、私は先輩に恋をしていた。
理由はわからない。薬は何度も接種したし、予防もしっかりしている。
それでも、私が今恋をしていることは明白だった。
先輩を思うと胸が苦しくなる、尽くしたいと思ってしまう。
異常な感情だと知っていてもそれを振り払うことが出来ないでいる。
会いたい、会いたい。愛してほしい。
その感情が無限に湧いて来る。
マズイ。そう思って薬を接種するも、一向に改善しない病。
この思いを伝えたくて、でも拒絶されるのが怖くて言い出せなかった。
これは病気だと私は何度も自分に言い聞かせた、それでも収まらない。
私は最後の手段に出ることにした。
「先輩!!貴方が大好きです、付き合ってください」
体育館裏に先輩を呼び出して、私は思いを伝えていた。
「は?感染者かよ、「恋」とか気持ち悪い…近寄んじゃねぇよ」
先輩は私を明確に拒絶する。辛い。でもこれが狙いだった。
「恋」の病は強い精神的ダメージを受けることによっても、治るのだ。
例えば、振られるとか。
「それでも。私は、貴方が…」
「うっせぇ、キモいんだよ!!!移ったらどうするんだ」
現在、SUL-51は人から人には感染しないことが明らかになっている。予防対策がある今なら尚更だ。
多分先輩もそれは知っている。
でも、そんな言葉を投げかけてしまうくらいには今の私は異質なんだろう。
こんなに拒絶されているのに、私は、私の中から「恋」は消えなかった。
私は縋り付くように、先輩に近づいた。
腕を掴もうとした。
「ち、近寄るんじゃねぇ!!!」
先輩は私を思いっきり突き飛ばした。
地面に体を打ちつける。体中が痛む。
それでも「恋」は消えなかった。
なんで、どうして?こんなに絶望しているのになんで、私は、
目から涙がこぼれる。
「愛してるよ、先輩……」
先輩は驚いたようにこちらを見つめる。
暫く、戸惑いを見せた後、先輩は私に手を伸ばした。
「え?」
驚く私に先輩は、
「こんなに、突き放しても、俺のこと愛してるって言ってくれたんだ。多分、これは病なんかじゃなくて、ホントの感情だ」
そう言って、私を立ち上がらせて、抱きしめてくれた。
「酷いことしてごめん、お前のその感情は病気なんかじゃない」
そう言われ、私はもっと泣いてしまう。
あぁ、そうか。そうだったんだ。
やっと分かった。私から「恋」が無くならない理由。
これは病気なんかじゃない、真実の愛だったんだ……!!
私は先輩を強く抱きしめる。
「愛してます。先輩。一生離しませんから」
ズボンでスマホが振動したが、そんなことは気にもならない。
眼の前の先輩だけを見ていた。
ーこのメールは全国民に送られます。
SUL-51について緊急のお知らせ。
愛しているという言葉を感染者が発することによって、その言葉を聞いたものは、ウイルスへの免疫力が一時的に極限まで低下し、ウイルスに感染しやすくなることが判明。
また、「恋」に強く感染している「ヤンデレ」と呼称される状態のものに従来の薬は効果が薄いことが判明しました。
心当たりのある国民は直ちに、近くの保健所まで……ー
SUL-51 人間に存在しない感情「koi」を引き起こす病。 磨白 @sen_mahaku
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