喫茶Fairy - 神隠しと失くした記憶 -
描記あいら
第1話 妖精の喫茶店
恐る恐る扉を開くと、そこには物静かな空間が広がっていた。レトロな雰囲気を基調とした喫茶店。天井には大きな羽の扇風機がゆっくりと回っている。入口から正面にはカウンターの席があり、そこにいた店員から
「いらっしゃませ。1名様でしょうか」
と問いかけられる。私はそれに対して静かにうなずく。「お好きな席にどうぞ」と案内され、私はカウンター席に座った。肩にかけていたカバンをおろして、壁に書かれたメニューを見る。普段から喫茶店に行くことのない私には、メニューを見ても何が何だかわからなかった。とりあえずコーヒーはあるだろうと思い
「すいません、ホットコーヒーをお願いします」
と注文をした。店員さんはカップを拭きながら「ブレンドでよろしいでしょうか」と聞いてきた。私はよくわからないまま「はい」とうなずいて、すぐに視線を壁に戻す。耳には「かしこまりました」と落ち着いた声だけが聞こえてきた。
注文を無事に済ませられた私は、深く呼吸をしてからお店の中を見渡した。一番奥のテーブル席にお客さんが一人だけ座っているだけで、他にはカウンターにいる私と店員さんしかいない。小さな喫茶店だ、おそらくカウンターの方が
駅から離れた路地にある喫茶店。地下へ下る階段の先に、ひっそりと構えられたそのお店は『喫茶
今思えば何とも不確かな
あまり店内を見渡しているのも不自然だと思い、私はコーヒーを作っている様子を見ることにした。その視線に気づいた
「いえ、知らないです。初めて見ました」
私はカウンターにいくつか並べられた不思議な器具を観察する。フラスコのような形をしたビンの中にはお湯が入っていて、その上にはコーヒーの粉が入ったビンが傾けられて置かれている。泡が発生しているフラスコには、下からは光が差し込んでいて、その熱でお湯が温められているのだろう。
「これはサイフォンと言う器具でして、こうするとお湯が上がってくるんです」
言われるがまま見てみるときれいな3層構造になっていた。上から泡のような層、コーヒーの粉の層があり、一番下の広いところにはにコーヒーと混ざり合って濃い茶色に染まった液体があった。初めてみるコーヒーの作り方に思わず感嘆の声が漏れる。
そのまま10秒ほど見ていると、すっと光が消えた。再度コーヒーが撹拌され、下のフラスコにコーヒーが流れていく。全て流れきった後、上のビンにはドーム状に茶色の泡のようなものができていた。
フラスコからカップにコーヒーが注がれ、「熱いのでお気をつけください」と
「少し冷めてくると、味わいも変わってきます」
そう言って
私は思わず奥の人をまじまじと見てしまう。
「あの人が……気になりますか?」
不意に
「……っ!」
思いがけない言葉に私は動揺する。ここに来た理由を見透かされている、そう感じて、どう答えればいいかわからず沈黙してしまう。
「いいんですよ。ここにくるお客様は皆、あの人の
「もしかしたら……って、力になってくれないときもあるんですか……?」
不安にかられて聞いてみると、「さあどうだろうね」と濁した言い方で流されてしまった。
私はもう一度奥の席に目をやる。帽子を深くかぶっていて顔は見えない。静かな店内だから、さっきの会話もきっと聞かれているだろう。
私は残っているコーヒーを飲みながら、あの人に話しかける言葉を考える。そうして飲み終えたカップを
「あの……」
声をかけても反応はない。鼓動が速くなっているのを感じながら私は言葉をつづける。
「……あなたが、なんでも悩みを解決してくれるって
「……」
少しの沈黙のあと、
「あなたの名前は?」
と聞いてきた。
「えっと、
「そう、
促されるまま、私は向かい合うように席に座る。
「私は……そうね、
「妹さんを探してほしい。それがあなたの願いね」
読んでいた本に栞を差し込みながら、
「なんでそのことを……」
「私、その人の眼を見ると、考えていることがわかるの。視線が合えばより深く」
彼女の眼は私の眼を見据えていた。私は咄嗟に視線を下に落とす。コーヒーからは湯気が立ち込めていて、その水面にはぼんやりと
「そんなに怯えないで。今は使ってないから。あなたの悩みはあなたの口から聞かせて」
「……」
すうっと息を吸い込んで、深く息を吐く。高鳴る鼓動を落ち着かせるように。何度も、何度も。その
「えっと……」
私はその言葉を皮切りに、悩みを打ち明けた。妹の
「あなたも最初は気づいてなかったのね。その、
「はい」と私は小さくうなずく。
「
私の返事を待たずに
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