真夜中のダンサー

崔 梨遙(再)

1話完結:1500字

「飲みに行かへん?」


 美人に誘われた。土曜日の晩だった。僕は路上で弾き語りをしていた。僕はストレス発散のために弾き語りをしていただけだ。自慢じゃないが、僕は歌もギターも下手だ。足を止めてくれる人も極めて少ない。だが、それでいい。ただ、ストレスを発散するだけ。だが、時々女性から声をかけられることがある。既に終電も終わった時間、人通りはスッカリ少なくなっていた。


「いいですよ」

「どこかいい店知ってる?」

「あ、僕がいつも行ってる店で良かったら」


 いつものアジアン居酒屋。照明は全て蝋燭。席はカーテンで仕切られて、2人きりの空間を演出してくれる。美人の彼女の名前は里佳子というらしい。


「良い店やんか」

「気に入っていただけましたか?」

「うん、いい感じ」

「で、悩み事は何ですか?」

「なんで、悩んでるって思うん?」

「あなたの心に、隙間があるように見えます。僕は女性の心の隙間に敏感なんです。それに……」

「それに?」

「何かなければ、僕を誘ってないでしょう?」

「確かに」

「家庭の悩みですか? それとも男の悩みですか?」

「両方」

「それは大変やなぁ」

「うん、私、離婚してん」

「いつ?」

「半年くらい前。私、ダンスを習ってるんやけど、パートナーの男の子と不倫関係になったのがバレて離婚された。親権もとられた。子供は2人いるんやけど」

「不倫になる前、旦那様とは? どんな感じやったん?」

「何年もセ〇ク〇レス」

「うわ、勿体ない、こんなに美人でスタイルもいいのに。胸もあるし」

「胸は豊胸したから。Bカップが、今は…DかE。ブラによって違うねんけど」

「で、今は夜のお仕事、ホステスさんですか?」

「そう、ホステス。ダンスって、結構お金がかかるねん」

「ふーん、僕で良かったら何でも話してくれたらええよ、話すだけでもストレス発散になるやろから」

「ありがと。でも、旦那とは最初から上手くいってなかったから」

「原因は?」

「婚前旅行。旦那は私のことを処女やと思ってたらしいねん」

「それで、処女じゃなかったからヘソを曲げたん? ヒドイな」

「ヒドイやろ」

「旦那は何をやってる人なん?」

「医者」

「玉の輿やんか」

「こんな寂しい玉の輿は嫌やわ。だから、不倫したんよ」

「でも、不倫相手がいるならええやんか、男の方は。子供は気になるやろけど」

「子供は気になる。不倫相手やったパートナーには、今、捨てられかけてるねん」

「どういうこと?」

「飽きてきたって言われた。今、他のパートナーを探してるわ」

「それもヒドイな」

「ヒドイやろ」

「今日はとことん、話を聞くで。話がしたくて誘ったんやろ?」

「ほな、全部聞いて貰うわ、愚痴やけど……」


「もう、始発の時間やで。帰ったら?」

「うーん、崔君、ウチに来る?」

「1人暮らし?」

「うん」

「ほな、行く」



 ベッドの上で、僕は里佳子に言った。


「里佳子も、違うパートナーを見つけたら?」

「息の合うパートナーを探すのって、難しいんやで」

「でも、どうせ捨てられるんやから」

「それは、そうやけど」

「別れたらええねん。次のパートナーが決まるまで、僕が側にいるから」

「ええの?」

「こんな僕でも、側におったら寂しくはないやろ?」

「そやなぁ……」



 また、終電も無くなった人通りの無い大通り。僕は里佳子と待ち合わせをしていた。彼女は、トボトボと歩いていた。


「不倫相手の男の子と別れたわ」

「よく決断できたなぁ、偉いと思うで」

「スワ〇〇ングしようって言われたから」

「ああ、パートナー交換ね、それはやめた方がええわ」

「男なんて、大嫌い」

「そうそう、男なんて、そんなたいしたもんやないで」



 彼女は踊り始めた。道に座り込んだ僕だけが観客だった。







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真夜中のダンサー 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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