【短編】安らかな眠りを

浅野彼方

第1話 使用人

「主様。朝食の時間ですよ」

 開いた扉から外気と部屋の温度が交わり室温が少し上がった。

 主と呼ばれた人はなんの返答もせずただ眠っている。


 一見、眠っているように見えるが実際は――


「……本当にお寝坊さんですね」

 使用人は少し呆れながら、眠っている主に近づくと憂いを帯びた表情を浮かべている。主に触れた指先はとても冷たく、触られたことに対する反応もない。


「次に来るときは、ちゃんと起きてくださいね?」

 寝具の側から離れ、おやすみなさいと声をかけるとその部屋を後にした。部屋には再び冷気が充満し始める。


 そう。これが彼女の日常であり、彼女が望んだ日常でもある。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る