第9話 テスト期間に突入


 授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。4限目の授業が終わった。俺は弁当を机の上に出して開く。


「よぉ、飯食おうぜ」

「あ、俺も良いか?」


 裕司と慶太が来た。いつも飯を食う時は大体こいつらと一緒なことが多い。瑞波は大体学食だ。金持ってるよなぁ。


「そういや、どうする? 今回も慶太の家か?」

「?? なんの話だ?」


 裕司の言葉に俺は首をかしげる。一体なんの話だ? 慶太は「あー、なるほど」と納得している。俺は余計に分からなくなってしまう。何かあるのか?


「なんの話って、もうすぐテスト期間だろ?」

「……あ」


 言われて初めて思い出した。そうだ、今日からテスト期間に入ったんだ。通りで朝練してた部活動生が俺たちと同じくらいの時間に来てた訳だ。


「……忘れてたわ」

「お前、大丈夫か? 今回の数学のテストかなり難しいらしいぞ?」

「流石に俺もこまめに勉強してたぞ」


 なんてことだ。慶太はともかく、裕司でさえ勉強していたとは、これは非常にまずいことだ。裕司が勉強すると言うことは今回のはそれほど難しい、もしくはめんどくさいと言うことだ。


「やばい、まじでどうしよう」


 冷や汗のような物が流れる。それほどまでにまずいと言うことだ。仮にも赤点なんて取ろうものなら我が母が烈火の如く怒り狂うのは目に見えている。


 俺は一度だけ赤点を取った。そしてそれを母に見られてしまった。その時の俺の気持ちを想像できるだろうか?


 俺は正座をさせられて2時間程のガチ説教をされる。俺はその時に誓ったのだ。2度と赤点だけは取らないと。だが、俺は今赤点を取るかもしれないと言う岐路に立たされている。


「ま、まぁ今から勉強すれば大丈夫なんじゃないか? なぁ裕司?」

「そ、そうだな。今から頑張ればなんとか間に合うんじゃないか? たぶん」


 裕司が最後にやんわりと保険をかけた。その最後の言葉が俺の不安をさらに掻き立てる。


「そ、そうだ! 瑞波に教えてもらおう!」


 そうだよ。瑞波に頼れば良いんだ。あいつの頭の良さはこの学校でもトップクラスだ。あいつに1週間教えてもらえればいけるはず。


「よし、俺ちょっと頼み込んで来る!」

「あ、おい!」


 早速お願いしに行こう。俺は教室を出て瑞波の所へ向かう。



「相変わらず人が多いな。それより瑞波はどこだ?」


 俺はキョロキョロと周りを見渡しながら瑞波を探す。いかんせん、人が多すぎて中々見つからない。


「どこだぁ? あ、いた!」



 比較的短時間で見つけることができた。俺は蕎麦を食べている瑞波のところまで向かう。瑞波もどうやら気づいたようだ。


「頼む瑞波! 1週間俺に勉強教えてください!」

「ちょ! いきなりなんだよ!」

「いや、今回のテストって難しいだろ? 赤点なんか取ったらやばいことになるから教えてもらおうと…」



 俺が正直に言うと瑞波はため息をつく。その表情は呆れていた。


「どうしてもっと早くに勉強してないんだよ。毎日少しずつ勉強しろよ」

「……はい、全くその通りです」



 ぐうの音も出ない正論パンチ。何も言うことができない。悲しい。


「……しょうがないな。」

「っ!! 本当にありがとう!」


 よっしゃ! 赤点回避の道が見えてきた! 俺がガッツポーズをしていると瑞波の目が鋭くなる。


「けど、絶対に赤点なんか取るなよ? もし取ったら……」

「ハイ……」


 もし赤点を取ったらただじゃおかない。瑞波の目がそう語っている。もし赤点を取ったらどうなるかを想像して俺は一瞬身震いした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る