第7話 王命での結婚 王太子目線
その少女のことを聞いた時、冗談だとしか思えなかった。孤児院出の少女を薬師長の友人が見出して弟子にした。
薬師長も才能に気づいて王宮薬師にしたがその才能を秘密にする為に、個室の仕事部屋を与えた。そして少しずつエリクサーの材料を与えてみるとそれなりの物を作りあげる。それならまだいい。驚くべきは出来上がる分量が十倍はあるのだ。
今でも彼女が作った物は全身に火傷した牛を完全に治療し、前足を食いちぎられた羊に足を生やしたらしい。
人間で実験するわけにはいかないから、動物で実験したと言う事だ・・・・・確かに正しいが・・・・
確かにそんな症状が綺麗に治ればその影響は計り知れない。
俺は彼女を保護することにした。俺がその問題に手を出すと言うと薬師長は見るからにほっとして、眉間のしわが伸びた。
その後、食堂で彼女を見た。ごく普通だった。確かにあの外見で王宮薬師と言うのは特別ではあるが、ひとりきりでありふれたポーションを作っている為、他の薬師も納得している。
なんせ、他の薬師は高度なポーションを作ったり研究する事に価値を見出しているので、熱冷ましだの胃に効いたり、痛みをとったりなどの薬を作りたがらないのだ。それを彼女が一手に引き受けているので、感謝されているらしい。
彼女は王宮薬師としては下の存在だとみなされ、才能に気づいている者はいない。
俺はどうやって目立たせずに彼女を王宮に囲い込む・・・いや保護するかと考えていたら、あのジルがこう言ったのだ。
「俺が結婚する。くどく時間も勿体ない。王命を出してくれ」
正気か?どうしたんだ?
「聞こえたか。俺が結婚して守る。公爵夫人に手を出す者はいない」
たしかにそうだが・・・
今にも走って行って彼女を捕まえそうなやつの襟首をつかまえた。それから二人で話し合って王命での結婚をいくつかまとめた。
王命とは、当人同士にしか言っていないが、秘密にするようにとも言っていない。
少しづつうわさは広まった。
ジルの野郎は彼女の仕事場を訪ねて結婚した。残念ながら婚姻届にサインしただけだそうだ。
キスのひとつもしてないとか・・・・・結婚してから口説くというのは本当だろう。
それなのに、エリクサーの材料の情報が入り、俺とジルはそれを取りに出かけた。
一年の遠征だったが、成果をあげた。旅の間ジルは、彼女にこまめに贈り物や手紙を送っていた。
確かにあの顔とこのこまめさに落ちない女はいないだろう。
そう思っていたのに、帰ってから聞かされた話しには驚いた。
すぐに彼女を捜すように手配をした。それから飛び出そうとするジルを必死で押さえた。護衛など可哀想に関節が砕けていたが、薬師長が持って来たポーションで治っていた。
なんせ王宮薬師が研究しているもので、まだ数がございませんので、絶対に秘密ですよと護衛に言っていた。
後で聞くと彼女が作ったポーションで動物に聞いたので大丈夫と思っているが、ああいう方のような丈夫な人で被検体が欲しかったのですよとさらりと言われてしまった。
それから、ジルを落ち着かせると、公爵家の始末をつけるように命令した。
王命による結婚をこけにするような貴族は排除だ。
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