コーギー
@inuun
我が群れ
吾輩はコーギーである。
今年で15歳である。
我が群れの者は吾輩に呼びかける際、「ブローニー」と鳴きかけてくる。
若い頃は、外に出る時首につけられるあの珍妙な道具が不愉快でたまらず、全身の力を振り絞り、絶えず力強く抵抗した。
しかし今の吾輩にはそのような力はなく、外に出る際にくだるあのいくつかの段差を億劫に感じている。
吾輩は同じ群れで15年ほど過ごしており、この群れの珍妙さにもだいぶ慣れ親しんだ。
まずその見た目である。顔や毛は言うまでもない。吾輩と同様4本の足を持つが、後ろ足で立ち、前足を自由自在に使う。あの2本の前足で吾輩の頭や腹を撫でたり、担ぎ上げたり、あの珍妙な道具を首につけたりする。
次にその声である。吾輩は唸り声や鳴き声で感情を表すが、彼らは千変万化の声を出す。鳴き声ひとつとっても多種多様であり、15年の歳月をかけても理解しておらぬ。
その珍妙さに、さすがの吾輩もしばらくは慣れることができずにいた。
自由自在の前足で頭や首に触れられることは怖かったので、口を開けて噛む準備をしていた。
また、叫び声が複数匹から聞こえると、睨み合いが始まる。面白いことに唸り声や睨み顔をひたすら突き合わせるのではなく、しばしするとあの多種多様な声で威嚇し合う。争いごとが起きると胸騒ぎがするので、よく止めに入った。
威嚇し合いを止めるのは毎度疲れ、これは今でも慣れぬ。
さて、この群れには珍妙な決まり事がある。
吾輩のみ、糞尿を特定の場所で実施すると、さまざまな香りのする飯をもらえるのである。甘酸っぱい香り、鼻を駆け抜ける小麦の焼けた香りなどこれまた多種多様である。
更に、必ず決まった時間に同じ飯が出てくる。この決まった時間の飯を食べ切ると、「おいしいもの」という鳴き声と共に噛みごたえのある細いものをもらえるのである。
さて、これを聞くと羨ましがるものもいるだろうが、実は不公平である。
彼らは夜になると吾輩の目の届かない高さの場所に専用の飯を置き食べている。
なぜわかるかと言えば、群れの中の1匹が吾輩をやつの後ろ足の曲がる部分に乗せて、専用の飯があることを我が目に見せたからである。
そこからは吾輩が食べたことのないような匂いがし、時にはあの吾輩お気に入りの「鼻を駆け抜ける小麦の焼けた香り」のする飯もあることも察せる。
何が不公平かと言えば、彼らはその素晴らしい香りのする飯を毎日食べ放題なのに、吾輩には少ししか分け与えぬことである。
一応、全力で笑顔を向けると、彼らも笑顔になり「かわいいねー」という鳴き声と共に少し分け与えてはくれる。
吾輩も同様にその飯を食いたいが、彼らは非常に強情でこの15年間、多く寄越した試しがない。
しかし、つい最近、全力の笑顔にさらにいくつかの予備動作を加えることで、もらえる量が少し増やせることに気づいた。それ以来、様々な予備動作をいくつか試し、少しでも量を増やそうと吾輩なりに努力している。
そんな彼らは、昼間吾輩を一人巣に置いて出ていく。吾輩も一緒に出ようとすると「ダメよー」という鳴き声と共に仕切りの外にあの前足で担がれ置かれる。非常に不本意だがそれ以上に寂しいので、吾輩は怒り狂ったように行くなと主張する。
しかし、この15年、一度もそれで止められた試しがない。
一度間違えて群れの一番偉そうにしているやつの後ろ足を噛んだが、もう片方の後ろ足で怒り狂いながら退けられたことがある。少し痛かったのでそれ以降、怒り狂っても噛みそうになる動きは自制している。
この群れで一番吾輩に飯をくれるのは珍妙な奴らの中では雌らしいものである。やつは吾輩によく「かわいいね」と鳴きかけて飯をくれるいいやつである。
次は雄の中で2番目に偉そうにしているやつである。
以前は吾輩を外に連れ出したり、糞尿を検知して飯をよこすなど身の回りの世話を積極的に行っていたやつだが、いつの間にか群れの中からいなくなっていた。と思えばたまに群れに戻ってきて吾輩と遊んで帰っていく。
さて、3番目に吾輩に飯をくれるのは雄の中で3番目に偉そうにしているやつである。こいつは夜遅くまで珍妙な音のするものを耳に当てながら、何やら飲んでいる。そして夜中に眠い吾輩にくだらぬ絡みをしてくる。飯をあまり寄越さないくせに変な絡みをしてくるので喧しい奴である。
最後は群れの中で一番偉そうな雄である。こいつは吾輩との関わりが薄い。最初の数ヶ月は積極的に吾輩の面倒を見ていたが、いつの間にか吾輩を鬱陶しい存在のように扱っていた奴である。こいつはこの通り性格が非常に珍妙な奴なので、他のやつからも微妙に嫌われている節があるようでいいザマである。だがたまに撫でてくるのでそれはそれで普通に嬉しく、妙に憎めないやつである。
以上が吾輩の群れの概要である。
コーギー @inuun
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