39:最期の試練

 ライアの辞退や、ティ・フォンの交代劇を受けて、ショーはさらに混乱を極めているように感じた。その動乱の中心にアリスト・アルバートが降り立ち、すぐさま渦中にいた俺達とフェイトを呼び出した。


「君たちのせいでショーがめちゃくちゃだ! 君たちは本当に勇者になりたいのか!?」


俺達に怒りをぶつけられても、という不満もあるが、アリストの主張もわかる。だが、フェイトは終始涼しげだった。


「いいじゃあないか~。おかげで、ショーは大盛り上がり。オーディエンスからの評価も上々だよ」


「黙れ! 伝統あるショーを壊す気か! 100回目の節目に!!」


「だから、革新が必要なんでしょ? いつまでも同じじゃあつまらない。これはただの殺戮ショーじゃない。政治抗争だって、ちゃんと知らせなきゃ」


「ぐ......。こいつ......。公共の場で!」


リオンとのつながりを得てから、なんとなくそんな気はしていた。結局、ショーを楽しんでいる人たちの戦争は終わっていないんだ。それを知らなかったリンドウとカインは驚いていた。特にカインはその表情から察するに怒りを抱えていそうだ。


「......それは、踊らされてたってことかい? 僕たちの願いじゃなく、あなた達権力者の願いを通すために僕たちは呼ばれたのかい?」


「君たちは象徴なんだ! 欲すれば叶う。そうあるべきという姿なんだ。だから利用している! だからと言って、君たちの願いを叶えないなんて思っているわけがない! それは本当だ! 前回覇者も、欲しいがままに美貌を手に入れた! それがアニだ!」


「......やり方なんて、なんでもいいんだろ? 要は、あんたが気に入らないって話なだけだろ」


「うるさい! 貴様だけは、貴様だけには言われたくない! 貴様がいると、すべての歯車が狂いだす! かつてのレオを思い出す! 貴様は勇者ではない! 厄災なのだ! キラー! こいつを、地獄につれていけ!!」


アリストの背後から、勢いよく現れたキラーは装いも新たに腕に包帯と曲がった刃を付けていた。本気で俺を殺しに来たってわけか......。


「お前を殺す!」


「俺は絶対に負けない!」


迫りくる刃を腕ごと掴み、そのまま背負い投げを決めるもキラーは綺麗に受け身をとってこちらに再度近づく。切り込みが素早くなり、俺の体にも若干傷がついていく。死神が付きまとう限り、俺が通る勇者への道はずっと壁が築かれる。だから、今ここで断ち切る。


「破魔震伝流 ‐獅子奮迅‐!!」


「!?」


技の威力に驚いたのか、キラーは突然俺と距離を置きだした。


「どうした、命でも惜しくなったのか!」


柄にもなく、俺が威嚇するもキラーはずっとこちらを見つめる。何かを分析しているようだ。そして、新たに俺の方へ近づく。だが、その構えは、さっきまでと違う。


「戦い方が変わった!? だが、そんなこけおどしに! 破魔震伝流 ‐神切颪‐!!!」


瞬間、キラーは腕に装着された刃で俺の剣を折ってしまう。しかも、この剣から伝わる振動......。破魔震伝流‐破刃心‐!? なぜ、こいつが使える? 困惑していると、彼女の刃は俺の胸元を切り裂く。服は破れ、そのまま俺は首根っこを掴まれて引きずられていく。


「くっ!! 放せ!!」



引き摺られた先は、山の外。辺りは曇り空で、地面には雪が降り積もっていた。

また、こんなところで何をしようっていうんだ!! キラーは俺を雪の積もった山の斜面に叩きつける。


「ぐっ!!」


今だ俺を放そうとしない彼女だったが、その腕は少し緩み始めていた。


「おまえは、だれだ」


自分の頭を押さえ、苦しむように訊く彼女に、俺は困惑した。その顔は黒い仮面で表情が見えない。だが、どこか懐かしさをずっと感じる。俺は弱くなった彼女の腕を振り払って、拳を構える。


「はぁっ? 俺は、ジュノ! 勇者になる男だ!! お前こそ、俺になんの用がある! 俺の行く先々を邪魔して! 誰の差し金だ! レオか、それともティ・フォン? それともアリストか!?」


「私は、すべての勇者を殺す者。そう、アリストから命を受けている。そして、お前がその第一の標的だ。 そう、お前は敵だ!!」


「急になんなんだよ! 自己解決しやがって!」


彼女の腕に付いた刃を思い出したかのように、俺は破魔震伝流‐破刃心‐で1つ叩き割り、もう一方についた刃も折ってやった。ここからは、拳と拳の戦いだ。俺のフィールドだ!


「拳は、苦手だ」


「だからってもう逃げるなよ? 俺はもう覚悟は決まってるんだ。あんた、俺を殺すってな......。なら、俺もあんたを殺す!」


「ああ、殺す! 殺してやる! それで、私は解放される!」


同時に拳が伸びる。互いの拳は、互いの顔にぶつかる。だが、少し俺が早かった。少しでも前に、拳を届ける! 波動を伝える! これが、破魔震伝流‐魂揺‐!!


「魂揺!!!! 」


彼女の付けていた仮面が割れ、彼女自身も吹き飛んでいく。トドメを刺そうと、俺が彼女の方へ向かうと、そこには姉さんであるニアの顔が見えていた。なつかしさと、とっさに出た破魔震伝流の動き......。フィドルの件もあって、復活してるんじゃないかって思ったこともあった......。けど、なんでこんな姿に?


「どうした、トドメを刺せ! でなければ、私はずっとお前を殺すため追いかけるぞ!!」


飛んできた足蹴りを受けきれず、もろに顎にくらってしまって俺の視界がぼやけてしまう。その隙を狙い、キラー......いや姉さんが俺の懐まで詰め寄る。


「ここで死ぬわけにはいかない!!」


彼女の拳を受け取り、そのダメージを一気に拳に伝えていく。その動きは今まで以上に洗練され、俺の思考は透き通っていたように感じた。


「伝返」


返されたダメージはニアへ伝わっていく。ニアはその場で崩れ落ちてしまう。

その表情は、どことなく笑みを浮かべていたようだった。


「......ジュ、ノ」


正気を取り戻したのも束の間、姉さんの体は再び消滅して跡形もなく消えていった。


「うん、成長したでしょ? 俺、これからも頑張るからさ。あんたの思う、いやみんなの思う一番の勇者になるからさ、静かに見守っててよ」


雪がしんしんと降り、俺の顔に粒が一つ流れ落ちていった。











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