34:閉じられた世界
勇者として望まれている、この舞台の中は閉じられた世界と言える。俺はそれを今痛感した。望まれた勇者像を演じる必要があるというのだろうか。
「面白くダンジョンを外の住人に見せるというっていうのが、順位を上げる秘訣なのかな?」
「それって楽しいんですの? 人の評価を気にすることが勇者なのでしょうか?」
「とはいえ、今後の指標にした方がいいんじゃないか?」
「ジュノまでそんなこと言いますの?」
そんなこと言われても、どう勇者になれるかとかわからないんだし......と不貞腐れていると、カインは俺の肩を優しく触れる。
「ま、僕はリーダーの方針に従うよ。どうする?」
「できる限り、課題があるダンジョンがあれば挑んでみよう。そのためにも、進みながら考えるべきだと思う」
「まずは、道を進むのみ。ですわね......。ゼノの代わりになれるか分かりませんが、勇者代行として自分の願いは自分で叶えてみせますわ」
気持ちを新たに、俺達は上り坂となっている道を進んでいく。ダンジョンの道中、特に100階を越えたあたりから松明が焚かれていて明るく感じる。登り道を数十分ほど歩いてすぐのところで、初めてフロアを示す看板が見えた。看板によるとここは210階となっている。あの上り坂を選んだのは正解だったのかもしれない。
「道が、ない......」
「どうやら、ミッションを達成しないと前に進めないタイプのダンジョン罠にはまったようですわね」
道がないのも気になるが、広がる円形の空間に沿って並ぶ宝箱が気になる。あれは一体何なんだ? その時、天井から何かが降ってきた。
「ジャンジャジャーン! 勇者の皆様、こんにちはー!」
「なんですの?」
「クモの化け物?」
「化け物とは余計な。私はダンジョンワナグモと申します。この通り、生きた魔物でございます。魔人でも、魔王でもない。正真正銘の魔生物です!」
緑と黒の縞模様に、気味の悪い八つ目の顔、そしてお尻にはなぜか宝箱のような形の殻が付いている不思議なクモ。しかも、ペラペラと人語を介す。魔獣島にはそんなのいなかったぞ......。魔人か、支配魔クラスか?
「話せる魔物、初めて見た......。 支配魔か?」
「めっそうもない! さっきも言った通り、魔物でございます! ですが、驚きました! こんなところに勇者ご一行が来られるとは! これは、おもてなしのしがいがあるというもの! ぜひ、私の罠を堪能していただきたく!」
「そんなのあなたを殺せば解除されるのでしょう?」
「おやおや、勇者たるお方がなんと野蛮な......。それでは、観客を楽しませてあげられませんよ? それに、私が死ねばただこの閉鎖空間に取り残されるだけですが、いかがいたしますか? それでも、試すとおっしゃるなら殺していただいても構いませんよ?」
クモの8つの目は曇り一つなく澄んでいた。うさんくさいが、ウソをついているようには見えない。ティルも同じようで、彼の真摯さに手が震え、剣を収めた。
「まあいいですわ。ですが、あなただって面白い罠を用意しているんでしょうね?」
「それは、お客様次第でございます。では、始めさせていただきます! ゲームは簡単。円状に並んだ10個の箱。その内一つに鍵が入っております。他は私の兄弟ミミックとなっております。箱を開ける機会は1人1回ずつ。全員ダメだった場合は死んでもらいます! さあ、お選びください!」
そう言われたものの、どうやって見分けるんだ? 外見上で判断する材料はない......。一つずつ軽く叩いたり、中の反応を確認しようとしてもピクリともしない。
「これ、見分ける手段があるの?」
「はい。もちろんございます。ですが、皆様の勘で選んでいただいても構いません。強運をお持ちであるのなら、ですけど......」
「なら、運で勝負するしかないね。じゃあ、僕から」
「ちょっと待った」
運だけで3回するのはリスクがある。できるなら、一度で見分けたい。鍵とミミック、何か違いが......。そうだ、重さだ!!
「重さを計ることはできるか?」
「と言いますと?」
「ミミックと鍵に重さの違いはあるか?」
「はい。この広場の中心で重さを計ることができますよ? しかし、それは1度計るにつき、箱を開ける行動1回分とみなします」
俺はカイン達と話し合い、2回まで計測しようと判断した。2回目以降は勘でしかないが......。俺達はまず三つの宝箱を真ん中に置いた。計測した数値は勇者の証に送られてきた。宝箱の総重量は6㎏。続いて、入れ替えるように別の三つのグループに分けた宝箱を真ん中に置いた。すると、5.5㎏。
「あたりだ! この三つの中に鍵がある!」
「手っ取り早くて助かりますわ」
続いてこの三つの宝箱を調べようとしたとき、
「ならば、ここで私も一つ勝負を仕掛けます! これから先は重量を調べることも、触ることも禁止とします! さあ、この三つから一つ宝箱をお選びください! 選んだものが正解のものなら、このフロアから脱出です」
「はぁ!? 急に何をいいますの? ルールが変わってますわ」
「それなら、私が箱を開けてさしあげますよ? もちろん、あなた方の行動2回分とは別でね」
「それなら、条件はいいのかなぁ......」
「では、お選びいただきますか?」
どうする......。触れたりしたら、この前のように惨劇になりかねない。また順位を落とすかもしれない。なら、従うしかないのか......。
「選択の余地はないか......」
「? 選択権は十分にありますよ? あなた方は十分自由だ。ダンジョンに囚われたままの私よりね......」
「......それは、いやだねぇ。 どうする? 誰が選ぶんだい?」
「俺に、任せてくれないか? 俺、リーダーだし」
「本当に大丈夫ですの? あなたに任せて」
「任せてとは言わない。ただ、願っててほしい」
「わかりました......。あなたを信用しますわ」
「ありがとう」
俺は宝箱を前にして、腕を組んだ。どれを選ぶのが正解かわからない。ここは、自分の心に従うしかない!!
「俺は......この宝箱を選ぶ!」
俺は真ん中を選んだ。理由は、ない。直感、ただそれだけのこと。クモは顔色一つ変えずに俺が選んだものとは違う右端の宝箱に触れた。
「では、私はこの宝箱を開けます」
「なにをしてますの??」
ティルの言葉など聞こえていないように無視し、クモはそのまま右の宝箱を開けた。すると、その中には虫のようなものがわらわらとこちらを食おうと目指そうとしていた。クモはその宝箱を閉めて、台本でもあったかのような喋り方をする。
「なんと! これはミミックでした。 いやー、運のいい方ですなぁ。さあ、勇者殿この二つの宝箱のうちどちらかがカギとなっております。あなたの選択を変えることもできます。さて、変えますか?」
「この展開を予想していたのか?」
「それはどうでしょう」
「意地の悪いやつめ」
「誉め言葉として受け取らせていただきます。さあさあ、お選びください! さあ、さあ! さあさあさあ!!」
俺の選択を変えるべきか、このまま押し通すべきか......。後ろを振り向くと、ティルもカインも俺を見守っている様子だ。責任重大だけど、押し潰れやしない! カノン、俺を見守っててくれ!!
「こっちにする!」
俺は選択を変えた。瞬間、クモがバツの悪そうな顔で反対側へ誘導しようと箱を触った。俺はそれを見逃しはしない。
「運命は俺を味方した! 破魔震伝流 ‐百脚凌嵐‐!!」
俺の選んだ方の宝箱を蹴りながらクモへ攻撃した。クモと宝箱は衝撃で倒れ、宝箱からは鍵がカランと出て来た。
「お前、最初から俺に鍵を渡すつもりなんてなかったな!」
「だが、お前は宝箱に触れた! お前達は私の言葉を無視した! ここは完全に封鎖させてもらう! こんな閉鎖空間で、ルールも守れないお前達を応援するものなどいない!」
「ルール? あなたが先に破ったものでしょう? 当たれば私たちを解放すると。でも、あててしまった時のあなたの反応はそれとは違う。だから、これは正当な権利ですわ。私たちは、前に進みます!」
「黙れ! 一生井戸の底で喚いていろ!」
クモが糸を吐き、俺たちを捕縛しようとしたもののカインの鋭い爪がそれを引き裂き、クモの尻の部分を引き裂いていく。
「僕らは、もうそんな狭い場所に収まるような人じゃないしねえ。でしょ、ジュノ!!」
「そうだ! 道は、自分で切り開く! 破魔震伝流 ‐獅子奮刃‐!!」
回転、振動する刃は獅子の牙のごとくクモを砕き、血肉に変える。血肉は粒子状の光となって消えていく。閉ざされたこのフロアの風景は、消えていき大小異なる坑道が蛇の群れのように広がっていた。
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