33:舞い降りた死神

 ぐるぐる、ぐるぐるとらせん状に連なる階段を見つけた。数フロア飛ばして、110階まで辿り着き、俺達は少し休憩することにした。暗いダンジョンに目が馴れたせいか、このフロアは明るく感じる。天井に明かりのようなものがあるせいだろうか。


「それにしても、魔物いないね」


「いいことなんじゃない?」


「ですが、少しつまらないというのもありますわね。ほとんど、勇者同士での戦いが多いですし......」


突然、ぎゅーという音が鳴った。俺の腹の虫の音だ。お腹が減った......。少し、食べ物を調達してこようかな。


「食料ってもうなかったよね?」


「もしかして、君のお腹の音? 確かにここ数日食べてないや。 少しは腹ごしらえしないとだね」


特に議論するまでもなく、俺は近くで生えていたハーブを採取し始めるとティルは腕組みをして探すのを拒否し始めた。


「ですけど、ここいらで生えてる草でも食べろというんですの? 嫌ですわよ?」


「そんな好き嫌いしないの、我がままお嬢様」


俺と同じように探していたカインがティルに苦言を呈すも、ティルは俄然動かない。


「誰がわがままですって?」


「じゃあ別にティルは食べなくていいよ」


「ちょっと! 嫌味言わないでいただけます?」


苦笑いを浮かべつつ、さらに奥へ進み地面を捜索していると1人の手が差し伸べられる。


「この豆、おいしいですよ」


「へー、そうなの?」


誰の声に似ていない、そう思ったのは返答した数秒後だった。顔を上げると、そこには黒いローブを着た男のようだった。


「お前、死神!! ていうか、話せるのか?」


いや、前に会ったときはしゃべっていた気がする。話すことくらい容易な事だろう。


「どうしたの、ジュノ」


「いや、ここにしに」


死神のことを話そうとした瞬間、死神によって口を塞がれてしまった。


「騒ぐな、ジュノ。俺のことは他のやつらに教えるな」


誰だ。なぜ俺を知っている。そう言える間もなく、死神は引き続き話始める。


「俺は、お前達を襲いたくはない。だが、俺の復活権はお前たちの排除にかかっている。時間をやる、仲間を裏切れ。そうすれば、お前の命だけは助けてやる」


そんなこと、できるわけがない。だが、口を塞がれた手はいつの間にか緩みどこかへ消えていた。


「どうしたの、ジュノ」


不信がったカインがこちらに近づく。

あの死神、どこにいった? どこに潜んでいる? ここで、さっきの事を言ったら全員死ぬのか? ここは、少し様子を見るべきか?


「いや、なんでもない」


「? 変なの」


俺はティル達の元に戻り、調理を始めた。どうするべきか......。打ち明けるべきか......。でも、どのタイミングで?


「ジュノ! 火!」


「あ、ああ。悪い」


調理用に焚き始めた火加減を間違えてぐつぐつと煮込まれていた草を取り出して、スープを完成させた。


「よし、食べようか」


「うん......」


「さっきからどうしましたの? ジュノ」


「明らかに動揺の仕草が見える。何か、隠してイル」


ゼノバスターは機械だ。そういう表情以外の動向で俺の不振点はすぐに上げられる。時間の問題だ。


「......。そういえば、最近死神とか見ないなって......。平和すぎて逆に怖いって言うか......」


「そんなことで、ビビッてますの?」


「......。なにか、伝えようとしてる? 君」


カインは鋭い。だが、俺のすぐ後ろに殺意の影があるように感じる。みんなをここで退場させるわけにはいかない......。


「とにかく、食べようよ。お腹空いた」


「そうだね」


直接的に死神が狙っていると彼らに話すと、彼らに危害が加えられてしまう。ただ、俺達は勇者だ。あんな脅しに屈しちゃだめだ。俺はスープを飲み干し、覚悟を決めた。


「そこで、死神に会った」


「なんですって?」


その瞬間、俺の視線の先で光がちらと輝き始め影が襲い掛かる。影はティルの背後へ近づく。


「ティル!!」


俺より先に、ゼノバスターがティルの背後に回り、影の斬撃を耐えた。


「ゼノバスター!」


「ゼノ、バースト!」


ゼノバスターの渾身の一撃は死神には当たらなかった。死神は、煙のように消えてすぐにゼノバスターへ攻撃を加える。


「お前のせいだ、ジュノ」


死神はゆっくりと語る。ティルはゼノバスターからもらっていた装甲で、死神に向けて乱射する。ローブに穴をあけるも、死神本体を傷つけることはなかった。


「こいつ!!」


「俺に怒りを向けるのはお門違いだぜ? 仲間を裏切らないと決めたお前の甘い考えが、結果的に仲間を裏切る行為になるのだからな」


「うるさい!」


死神のローブを掴み、俺は流派を使うことなく殴りつけた。だが、死神は笑うだけだ。顔を覆うローブがはらりと落ちる、その瞬間半分ガイコツになった男があらわになった。


「な、なんなんだ! お前!」


「おいおい、俺の顔を忘れたのか? なら、これで思い出せるか?」


死神が拳銃を取り出し、早打ちするとその弾丸は大外を曲がって俺の足や腕を狙い始める。この軌道、初めてじゃない。


「俺一人で戦っていると思うな!」


「あなたの相手は私ですわ!! 死神さん」


ティルが死神の放った弾丸を迎撃してそのままゼノから取り出した剣でその死神のローブをメタメタにする。すると、胸の中心に魔石がはめ込まれた姿があらわになった。


「お前......」


「ジュノ、知ってますの?」


「あの弾丸の使い方、俺の知っている限りでは1人いた。フィドルっていう拳銃使いだ」


「レオが使っていた必中の祝福のときに口走っていたね。その子って......」


「退場したはずだ。俺の手で......」


「そうだったな......。だが俺はお前に殺された後、アリストたちに拾われて改造された。俺たちが選んだ道は片道切符だ。復活権を得た代わりに、人間でなくなる」


「どうして、そこまで!」


「言っただろ。俺は妹を探している。そんなの、自分で探さねえと意味ないだろ」


「お話は済みましたか? 死神F」


突然話に入ってきたのは、ティ・フォンだった。音もなく現れてびっくりしたものだが、なんでこんなところにこいつが現れたんだ?


「ティ・フォン? どうしてここに?」


「ジュノさんたちが、第一関門にいなかったのでびっくりしましたよ。私のいない隙を狙い、レオがあなた達を倒そうとしたのでしょうけど......」


ティ・フォンの声色は初めのときの飄々とした印象と変わらないが、音圧も表情の神妙さも相まって恐怖すら感じる。


「はぁ......。記念のショーだというのにここまでトラブル続きなのは初めてですよ。しかも、死神は自由意志を持つなんて......。これは、調整の必要がありそうですねえ」


「な、なにをする!! やめろーーー!!」


怯える死神となったフィドルをティ・フォンが包み、もう一度離れると魔法のようにその場からいなくなっていた。


「イッツ、イリュージョーン!! お楽しみ、頂けたかな?」


「おい、あいつどこへやったんだ!?」


「種も仕掛けもございません。果たして可哀想な死神はどこへいったのでしょうかぁ!? ハハハハハハ! 答えは、地獄! なーんてね!!」


「貴様ーーー!」


「冗談も通じない勇者は、評価されませんよ? みなさんの評価点をご覧になってます? レースとして見れば順位は2位。ですが、ダンジョンの内容は明らかに薄い! ただ登ってるだけ!」


そう言うと、ティ・フォンは俺達の勇者の証を盗み取り映像を見せだした。そこには、俺達勇者パーティーが評価順に順位が決められていた。1位は俺の先にいるボアのパーティ。2位は、キラー? しかもソロで? 3位はジュエル......。俺達は......。


「5位、ですって!?」


「あらら......。これは手厳しい評価だねえ」


「顔も見えない奴らの評価なんて知るかよ!」


「そんなこと言ってたら、また評価を下げますよ? ほら、頑張れ。頑張れ」


「そんなの、ダンジョンの内容に左右されるだろ! 俺達はたまたま面白みの少ないところに当たってるだけだ!」


「ダンジョンのせいにするのかい? ま、それも仕方ない。でも、魔物や死神を無視しながら登るのはまずいよね。勇者の行動じゃない。だから、頑張れっつってんの。わかる? 君たちだって、果たしたいことがあるんでしょ? 夢があるんでしょ? なら、叶えなくちゃ! だって、ここはすべてが実現できる! なんでも叶えられる! 欲望をむき出す人の蟲毒『The lust-one show(欲望まみれの見世物台)』なんだからさぁ!!」


歓喜沸き立つ、民衆を映像で俺たちに魅せるティ・フォン。彼は俺達の勇者の証を残し、姿を消した。残ったのは、観客たちの歓喜と笑いの音楽だけだった。




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