ザ・ラストワン・ショー! ~武術一筋の俺、たった一人の勇者に成り上がる~ 

小鳥ユウ2世

第一部:勇者へ向かう道

1:私がキミを勇者にしてあげる

 生まれた時から、見知らぬ土地にいた。物心つくときから俺は絶望という感情だけがあり、泣くことさえ諦めていた。そんな中、諦めず育ててくれたのはニアだった。彼女は俺に子守歌代わりに「大勇者カノンの物語」を聞かせてくれた。その物語は、彼女も俺も強く惹かれ、生きる希望となった。

だから、俺は勇者になりたいと強く願った。自分が希望となれるように。なにより、姉さんを守れる強い男になれると思ったからだ。魔王も神もいなくなったこの世界で、どうすればなれるかなんてわからないけど......。


「ジュノ、また勇者の妄想してる?」


生まれ育った魔獣島で唯一平穏な時間と景色。それは、16年かけて見つけたの一番大きな山の頂上で見る夕陽だ。この絶景を知るのはこの島でたった二人。俺と、ニアだけだ。


「それしか、楽しい事ないんだもん。ニアだってそうだろ?」


ニアは猫のような三角耳をピコピコとさせながら頬を赤らめて照れ始めた。


「......当たり前よ。大勇者カノンと魔王の物語の舞台で生きているんだもん。 私だって、その物語に救われた1人だし」


血の繋がりも種族も違うが、親代わりであり姉を務めて来たニア。彼女は夕焼けでさらに紅く染まる髪を揺らし、黄昏ながら景色を眺める俺に微笑みかけた。この時間が俺は一番好きだ。それでも、俺はどこか旅へ出たいとも感じていた。


「だから、俺はいつかニアが認めるような勇者になってみせるよ!」


この言葉は俺の本心だ。そして、旅たちへの決意だ。いつか、ニアも俺と一緒にいれなくなるかもしれない。一人で生きるために、俺も勇者にならなくちゃ......。その決意が伝わったのか、夢の変わらない俺に口を大きく開き、そのギザギザとした歯を見せて喜びの笑みを浮かべた。


「そう、その夢は変わらないのね! じゃあ『いつか』を『今』にしてあげる! これ見て! 街で拾って来たんだ」


姉さんは俺に内緒のつもりで本土へ出かけている。理由は多分島では調達できない食材を買いに行ったり、お金を稼ぎに出るためだ。俺は本土の事を知らない。島以外の文化や情報を知るのは姉さんだけだ。だからこそ、彼女の見せた紙は重要なんだ。


「なにこれ」


彼女からその紙を受け取ると、そこには「きみも最高の勇者になろう!」という文字が一番初めに目についた。そこから上に目線をスライドすると『ザ・ラストワン・ショー!』という文字とイラストが描かれていた。自分の表情はわからないけど、俺は目を輝かせていたと思う。すると、ニアが俺から紙を取り上げて自身に視線が向くようにしてきた。


「私、夢だったことがあるんだよね」


「なに?」


「最ッ高の勇者を育てること! だからね、ジュノ。私が君を、最高の勇者にしてあげる!! だからさ、出てみない!? 勇者たちが集う『ザ・ラストワン・ショー!』に!!」


このチャンスで、俺が勇者になれると考えると震えが止まらなかった。ラストワンって名前からして、たくさん勇者がいて、その勇者から「たった一人の最高峰」を決めるって感じだろう。 てことは、たくさんの勇者にも会えるってことだよな!? それって、すごく最高じゃないか! 俺は姉さんから無意識にその紙を取り上げていた。日光にかすむその張り紙ポスターは日の光以上に輝いて見えた。


「うん! やる。俺、これ出たい!!」


「その意気だよ! でもまずは、私と一緒に修行だね」


「わかった。じゃあ、ニアは師匠だね!」


「し、師匠......。フフフ、いい響きねぇ。じゃあ、師匠の地獄の特訓をお見舞いしてあげるわ!! ついてきなさい」


「はい!」


ニアの後をついていくと、うっそうとしたジャングル地帯から草木も生えていない開けた場所へ向かっていた。そこは、かつて勇者カノンと魔王の1人が激戦を繰り広げた戦跡らしい。俺にとっては、聖地ってわけだ。


「ここって魔王と勇者が戦った聖地だよね?」


「そう。ここで、魔王の1体が倒されたと言われている。でも、この島にはその魔王の末裔『魔人』がいるんだ。その魔人を倒すのが、今の目標! だって、魔王を倒せるレベルじゃないと勇者じゃないもんね?」


「じゃあ、その魔人と戦うため修行するってことか。なんだかワクワクしてきた!」


「よし! なら、師匠についてきなさい」


ニアがそういうと、草むらからスライムが3匹ぷるぷるとゆれながら俺の前に現れた。まだ生きてる種族がいるなんて驚いた。全部俺が潰したと思ってた。


「えぇ? スライム? やっぱ、勇者のはじまりといえばスライムってこと? ちょっと舐めすぎじゃない?」


そういうと、突然スライムたちが互いの身体を擦り合わせていって合体していった。その姿は大きくなり、キングスライムへと変化した。


「そんなレベル、当に過ぎてるでしょ? ジュノ、君が戦うのはスライムやスカルボーンのような低級じゃないんだよ? さあ、このキングスライムにあなたのすべてをぶつけてあげて!!」


すると、キングスライムはその大きな体から触手をいくつもニョロニョロと生やしていき、俺へ攻撃していく。その攻撃を軽くいなしていき、俺は腕が振るえるほど力を加えながら拳をキングスライム本体へ攻撃を仕掛けた。


「破魔震伝流 ‐魂揺たまゆら‐」


俺の正拳突きは、加えた振動をスライム本体であるコアへ力として伝えていく。その力でスライムのコアは分裂、形をなしていたスライムは粘液となって散り散りとなっていった。これが勇者カノンに伝わり、ニアが受け継いだ武術、破魔震伝流だ。


「こんなの序の口!」


スライムの残骸をみて、姉さんは頷きながらぺろりとその粘液を口にした。

スライムなんて、生臭い内臓みたいなのによく食べるよな......。


「私の教え子なら当然でしょ。実力試験は続くよ! 次は彼だよ」


ニアが指を鳴らすと、彼女の後方から森の木々より大きな一つ目の鬼『サイクロプス』がこん棒を持って俺の前に立ちはだかった。



「次から次へと......。ていうか、なんで魔族はニアの言うこと聞いているの? 俺なんて毎度殺されかけてんのに」


「......。それは私が強いからよ。この島は弱肉強食の世界。強いものがこの小さな世界を牛耳る。あんたの目指す、勇者たちの大会はまさしく弱肉強食の競争ゲーム。この世界そのものなんだよ? だから、この小さな世界を踏破しないといけないんだ」


理解したような、なんとなく腑に落ちないような......。それ以外のつながりをなんとなく感じる。サイクロプスも、彼女を見た途端に恐怖という感情と一緒に、なにか家族を見ているような安心感のある目つきをしていた。気のせいだろうか。


「うあっ!?」


考え事をしていた最中、俺の見えた景色は一瞬にして変わっていた。あれ俺、いつの間に空を見上げてるんだ? いや、身体全体に痛みがある。俺はあいつのこん棒に吹き飛ばされたんだ......!! 下半身を曲げて何とか着地し、そのまま俺はドスドスとこちらに近づくサイクロプスに対してスライム同様、正面から攻撃した。


「破魔震伝流 ‐魂揺たまゆら‐!」


だが、その拳は腕ごとサイクロプスの大きな手によって掴まれてしまっていた。


「はぁ!?」


どれだけ腕を振動させても、サイクロプスはびくともしない。なぜだ? すべての魔族は生命の振動に弱いと聞いてたのに!?


「そんな攻撃じゃあ、サイクロプスの強靭な身体に傷なんてつかないよ? さあ、どうする? 勇者くん」


それでも、困難を乗り越えてこそ勇者だって言いたいんだろ、ニア。なら、ここを抜け出すしかない! まずは、サイクロプスから距離を取っ......。固っ!? 全然動かない!? 俺の腕が、土に埋もれているみたいだ......。こちとら、必死に抜け出そうとしているというのに、腕の関節が外れそうだ!!

 瞬間、サイクロプスは俺の腕を掴んだまま持ち上げて、俺の足がサイクロプスの文字通り目の前の位置まで上がっていた。ここがチャンスだ。


「破魔震伝流 ‐百脚凌嵐ひゃっかりょうらん‐!!」


攻撃の余波で、サイクロプスの大きな瞳に、鎌鼬のような鋭い風が吹き下ろされる。その風はサイクロプスの瞳を傷つけ、横一線に血が噴き出しはじめる。サイクロプスは俺を放りだし、両手で目を覆い始めた。すかさず、俺は連続的に顎・みぞおち・下腹部へ正確かつすばやく拳を入れた。


「破魔震伝流 ‐螺刹らせつ‐!!!」


サイクロプスの大きな身体は奥の鬱蒼と生い茂る森の方へと吹き飛び、向かいの浜辺で止まったところで蒸発していった。そのサイクロプスによってできた道をほくほくとした目つきでニアは見つめてはこちらへ走ってきた。


「さっすが、我が弟子! これで、魔人も倒せるね」


さらには俺をギュッと締め殺す勢いで抱きしめ始めた。久しぶりの抱擁に彼女の力加減もわかってないし、俺も抜け出す方法も忘れて息が苦しくなった。俺が思いきり彼女の太く引き締まった腕にタップするとようやく力が緩まった。


「い、痛いって! ニア!!」


「あ、ごめん。ごめん。うれしくなるとつい、力加減間違えちゃって......。あんたがちっちゃいころも、このせいで大変だったんだから......」


「ああ......。おぼろげながら、いつ殺されるかヒヤヒヤしたもんだ。......それで、その魔人ってのはどこのどいつだ? いつ会える?」


「いや、もう君は会ってるんだよ。ヒントその1、その子の体には綺麗な宝石がついている。ヒントその2、その子は君と同じ破魔震伝流を使う」


その言葉に、俺の背筋が凍ったのを感じた。ニアを見つめると、彼女の顔はいつもの笑顔ではなかった。相手を挑発するような、嘲笑のような歪んだ笑みだった。


「冗談、だろ?」


そう言うと、彼女はいつも体に巻き付けているさらしを外していく。ずしりと重い音をさせながら、地面に落とすと彼女のへそには青く輝く宝石が埋め込まれていた。昔、一緒に体を洗っていた仲だ。彼女についた傷も、その宝石のことも知っていた。でも、疑問を抱かなかった。自分と違うからと思っていた。でも、それは魔族の証だったなんて......。


「私の父は、魔王『ヘルクレス』。かつて、力の支配魔と呼ばれていた力の王者。私はその子供『刃装魔のニア』さあ、殺りあいましょう?」


彼女は構えだした。いつもの俺の取る、破魔震伝拳の構えだ。彼女の眼を見ればわかる。あれは本気で嘘偽りのない目だ......。俺は、この人を倒さないといけないのか......? いや、倒さなくては俺の信じる勇者にはなれない! 

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