くるっていく

みうら

1

好きな人に、好きな人の話をされるのは、これが初めてではなかった。違ったのは、その子の好きな人が大学生だったというところだけだ。

ぼくと同じ中学3年生のはずの彼女が色っぽく見えて、どきりとした。


好きな人のそういう話を聞くのは、ぼくにとって決して苦痛ではないと思う。「NTR」だとか「BSS」だとか、好きな人をほかの男にとられることを示す性的な嗜好のジャンルとして構成されたそれとは、きっと違って。たぶん、そういう話をしても大丈夫な人だと認定してくれたことが嬉しいのだ。

今回については、いまだに第二次性徴を迎えておらず、だぼだぼの学ランに着られているぼくが、とっくのとうに女である彼女の視界に入るわけなどないというのは、初めから分かりきっていたし。


彼女はぼくと作戦会議をしては、目当ての大学生の男に色仕掛けをした。

もちろん、大学生が中学生の彼女に手を出したら警察沙汰である。

ぼくはそれを知っていたが、

「それってまずいんじゃない?」と聞いたら

「えー、私もう子供じゃないし挿入できると思うよ」

ときょとんとした顔で返されたので、彼女はたぶん知らないようだった。もしくは、知らないふりをしていた。


止めようか、と少し思ったが、彼女の機嫌を損ねたくなかったのでやめた。彼女の一番大事な人になるのは無理でも、「大事な人ランキング」でできるだけ上位にいたいとは思っている。アプローチをやめたのも、順位を下げないためだ。

ぼくは有能な男でいないといけない。


そんなふうに日々を重ねて、けれど、彼女と大学生の男は結局結ばれないままで。ぼくは男を落とす方法をあまりにも大量に考案したので、「どこぞの恋愛マスターみたく本とか出したらいいんじゃない?」と彼女に言われるようになってしまった。

しかし、高校受験が間近に迫ったある日、彼女が色仕掛けに成功した。彼女は笑顔で、図書館で数学の勉強をしていたぼくに詳細を語って聞かせた。


「公園の多目的トイレに押し込まれた」「胸をめっちゃ揉まれてびっくりした、ちょっと痛かった」「こう見えて処女じゃないんだよね」「わりとうまくやれたような気がする」「彼の…獣…野生に帰った?本能のまま!!みたいな顔ぞくぞくしちゃった」


何かが、がらがらと崩れていくような気がした。なぜだ。彼女の中でぼくのランキングはまた上がったはずだ。

「避妊は、したの?」

「してない。だけど安全日だから大丈夫!」

掠れたぼくの声を、彼女は気にも留めないようだった。

恋する乙女の顔が、恋する雌の顔になったような気がして、無垢な笑顔の彼女の体に、男の体液がかかっているような気がして、気分が悪くて仕方なかった。

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