天下の騒乱
第59話 非常事態!
「このサイレンはJアラートか」
興俄が呟く。
爆発音は方々から聞こえる。東西南北関係なく爆発音が聞こえ、遠くでは白煙が上がっている。
「何が起こっているんだ……」
鷲も首を傾げる。
「様子を見てきます」
仲間の一人が去って行くと同時に。江ノ原が慌てた様子で校舎から出てきた。
「まずいことになってる、日本が乗っ取られたみたいやで」
「乗っ取られた? どういうことです?」
怪訝な顔で興俄が聞いた。
「国内の通信が一斉に遮断したんや。地震の影響やない。明らかに何かの力が働いている。今朝方から、日本海側の至る所に外国の艦艇が接近してるって聞いたし、国内のあらゆる場所で目的、国籍不明の人間が暴動を起こしているらしい。警察署を襲撃したり、店で略奪をしたり、官公庁を包囲したりとあちこちで暴れているってな。TVもスマホもダメで、なんとか情報を集めようとしていたら、あらゆる通信がシャットダウンされた」
「もしかして、HEMP攻撃されたのでは?」
「いや、電気、水道は使えるから、ライフラインは生きてる。HEMP攻撃で高高度核爆発が起こったらダメージはこんなもんやない。とりあえず、なんとかやってみるわ」
そう言い残し、江ノ原は足早に校舎へと戻って行った。
「ええ? 日本が乗っ取られたの? じゃあ、さっき聞こえた爆音って、どこかで暴動が起こっているってこと? これが全国で起こっているの?」
冬華が言うと、
「あの時代、俺達が世を去る前より疫病が流行し、天変地異が続いた。そして俺たちの死後、この国に何があったか」
何かを思い出すように、興俄はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「ええと、歴史では他国の侵略……。フビライ・ハンの蒙古襲来?」
冬華の言葉に、興俄は鋭い眼で鷲を睨んだ。義経北行伝説――義経が平泉では自害せず、成吉思汗(チンギス・ハーン)になった伝説を思い出したようだった。
「え? 僕は全く関係ないですよ。あの説はいろいろと矛盾が生じているでしょう? まぁ、信じるのは勝手ですが」
鷲は肩を竦めた。
「それくらい分かっている。いつもお前が英雄になるのが気に入らないだけだ」
「そんなこと、ありえないだろう」「乗っ取られたって、どうするんだ」
校庭にいた人々がざわつき始める。
すると、緊迫した空気を破るように、遠くからのんびりとした口調が聞こえた。
「ゆかりちゃん、やっと辿り着いたよ」
「もう、歩きすぎで疲れたぁ。たっくん、足が痛い」
額に汗をかきながら、リュックを背負ったゆかりんと御堂が校庭に入って来た。
「え? 御堂さん? ゆかりんもどうしてここが分かったの? どうやって来たの?」
冬華が驚いた顔で聞くと、
「ともちゃんに聞いたんだ。もう、急に交通がマヒして大変だったんだよ。スマホも繋がらなくなるし。あ、ともちゃん久しぶり。彼氏も連れてきた。久しぶりの再会でしょ?」
ゆかりんの後ろには笑顔の賢哉の姿があった。
「よ、朋渚。お前さ、こんなとこで何をやってるんだ?」
ともちゃんの彼氏、賢哉が屈託のない笑顔で片手をあげて、ともちゃんに駆け寄った。
「け、賢哉? なんであんたがここにいるのよ」
ともちゃんの顔は、彼の姿を見た途端、みるみる強張っていった。
「だってお前、夏休みに入ってからずっと連絡がとれなかっただろう? 気になって家に電話したら、学校の課外授業で北川先生と一緒にいるって聞いてさ。そんな課外授業なんて俺は知らないし、心配してたんだよ。そうしたら、たまたま菜村に会って。一緒に行くかって言われて、ついて来た」
「何で来るのよ! どうして来たの? 私がどんな思いで……」
それだけ言うと、ともちゃんは泣き出した。
「え? お前泣いてるの? もしかして、俺、邪魔なの? 来ちゃダメなの? 何で? 菜村、俺は邪魔なの? 何で俺だけなの? 何かした?」
賢哉は訳が分からないと言うふうに首を傾げ、隣にいたゆかりんに聞いた。
「私もわかんない。せっかくここまで来たのにね」
「彼女の気に障ること、何もしてないのか。お前、デリカシーなさそうだし」
御堂が言うと、賢哉はムッとした顔で彼を見た。
「してないですよ。会った途端に怒られていきなり泣かれるとか、俺、全く意味が分からないんですけど」
ゆかりんも賢哉も、何故ともちゃんが泣いているのか全く分からず、御堂を入れた三人はあれこれと言い合っている。
「女心は複雑なんだぞ」
御堂が言えば、
「お言葉ですが、御堂先輩が女心を語っても説得力はありません」
賢哉が返す。
「なんだと!」
御堂が声を荒げ、
「ちょっと、たっくんも賢哉も落ち着いて」
ゆかりんは二人を宥めている。
「ともちゃん。賢哉は何も知らないんだし、ここは適当にごまかさないと。前世の話は絶対に知られたくはないんでしょ」
冬華が小声で言うと、ともちゃんは「うん……」と頷いて、涙を拭った。彼女は顔を上げ、北川先生に耳打ちする。
「あの人が賢哉に余計なことを言わないように、釘を刺しといてよ。先生も絶対に言わないで」
「分かってるわよ」
麻沙美は頷く。
「冬華も、ゆかりんたちに黙っておいて。勿論、椎葉くんにもだよ」
「分かってる。ともちゃんは北川先生から研究の手伝いを頼まれて、バイトでここに来てるってことにしておくから、話を合わせておいてよ」
冬華の言葉に頷いたともちゃんは、深呼吸を一つして賢哉に近づいた。
「賢哉、取り乱してゴメン。ちょっと久しぶりに会ったから、ええと、その、感情が高ぶっちゃて。とにかく会えて良かった」
ともちゃんは精いっぱいの笑顔で微笑んだ。
「え? そんなに久しぶりでもないと思うんだけど」
賢哉が不思議そうに言うと、
「ああ。やっぱりお前、デリカシーないわ」
御堂が納得したように深く頷いた。彼は続ける。
「あ、それよりも、どうやら最近の災害に付け込んで、どこかの国が攻めて来やがったみたいだ。どうするんだよ」
「え? あれって日本が攻められていたの? 強盗じゃなくて?」
ゆかりんが目を丸くする。「そうだよ」と頷いた御堂がこれまでの経緯を説明した。
「ここまで電車で来ようと駅でTVを見ていたら、いきなりニュース速報が流れたんだ。日本海側に国籍不明の艦艇が多数接近して、緊張が高まっているって。そうしたら、いきなりスマホも繋がらなくなるし、TVも映らなくなって、電波妨害じゃないかって誰が言っていたけれど、訳が分からないし。通信機器もあちこちでおかしくなって、電車だって止まるから進めないし。バスと徒歩で何とかここまで来たんだ。途中、武装した怪しげな奴らが、建物を破壊していたし、絶対にただ事じゃないだろ。サイレンが鳴ったり、防災無線で絶対に家から出るなとか呼びかけたりもしていた。実際、俺達も襲われたんだ。なんとか制圧して問い詰めても、日本語じゃないから何を言ってるのか分かんないし。ここに来るまでにいろんな人に話を聞いて、どうやらこの国がまずいことになっているって思ったんだよ」
御堂が早口でまくし立てた。
「たっくんは、ほとんど一人で強盗を倒したんだよ。かっこ良かったぁ」
ゆかりんがうっとりした声で言うと、御堂は照れくさそうに頭を掻く。
「まぁ、それはそうなんだけど。って、そうじゃなくて。TVもネットも繋がらない。何が起きてるか全くわからないけれど、鷲、どうするんだよ。その様子じゃ、今からこいつと戦うとんだろ?」
御堂が興俄を指さすと、彼は不服そうに御堂を睨んだ。
「おい、俺に指をさすな。だれが『こいつ』だ。この無礼者が。立場をわきまえろ」
「日本が攻められているのなら、そちらと戦うのが先だろう。まずはこの国を護らないと。この人との決着は、その後だ。そうですよね」
鷲はいったん刀をしまい興俄の方を向いた。
「仕方がない。まぁ、平和ボケしている今の日本では、一週間あれば属国になるだろうな」
興俄は周囲にいた仲間達に視線を移動させ、片手をあげた。やはり彼は、鷲に対して何らかの攻撃を仕掛けていたようだった。
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