第38話 新たなカップル誕生
毎日、暑い日が続いている。一学期も今日で終わり、明日から夏休みだ。夏休みと言っても、高校生は補習や部活に追われて、結局は学校に通わなければならない。
「冬華、なんか吹っ切れた顔してる」
ともちゃんが言った。
興俄とはきっぱりと別れたと二人に告げたばかりだ。実際、最後に会った日から、彼からの連絡は全て無視していた。校内で姿を見かけても、彼の視界に入らないよう避けている。このまま夏休みに入ってずっと会わなければ、完全に別れられるだろうと思っていた。だいたい、彼には北川先生がいるのだ。
「もっと落ち込んでると思ったから良かったよ。それとも他に気になる人ができたのかなぁ?」
ゆかりんがにやりと笑う。
「どうしてそんな話になるのよ」
冬華は口を尖らせるが、友人たちは構わずに続ける。
「でもさ、神冷先輩と一緒にいる冬華ってぎこちなかったよね。ずっと思っていたけど」
「それ、いまさら言う? なんて、私も思ってたけど」
苦笑いを浮かべた二人が顔を見合わせた時、
「おーい。朋渚」
ともちゃんを呼ぶ声に三人が振り向くと、ともちゃんの彼である賢哉が満面の笑みで手を振っていた。
「あ、忘れてた。私、賢哉と帰る約束していたんだ。じゃあねぇ」
「あの二人ってほんと仲いいよね」
駈け出して行った友人の背中を見て、冬華が微笑む。
「そうだね。お互いしか見えてないって感じ。羨ましいよ。それより、いつになったら御堂さんを紹介してくれるの? 明日から夏休みなんだよ」
「あ、忘れてた」
しまったと言う顔でゴメンと両手を合わせる。
「ちょっと!」
「でも、御堂さんには言ったよ。友達に会ってくれませんかって」
「え? そうなの?」
ゆかりんは目を輝かせた。
「御堂さんも嬉しそうだった。あ、そうだ」
冬華が教室内を見回すと、鷲は帰り支度をしていた。
「椎葉くん、今日って御堂さんに会える?」
「御堂? 一緒に帰る予定だけど、あいつに何か用事?」
「ほら、前に話した」
冬華の視線がゆかりんへと移動する。ゆかりんが黙って両手を合わせ『おねがい』と口だけ動かした。鷲は二人の意図を理解したらしく、
「ああ、なるほど。任せて、御堂に伝えるよ。校庭で落ち合おう」
彼はそう告げて、教室を出て行った。
教室を出たゆかりんと冬華は、校庭の隅で鷲を待っていた。
「夢野さん」
鷲の声に振り向くと、いつもはどっしりと構えている御堂が、彼の隣でそわそわとせわしなく動いている。そしてこちらも、いつもは饒舌なゆかりんが黙って冬華の背中をつついた。
「御堂さん、こちらはゆかりん……じゃなかった、菜村優夏梨さん。ほら、この前話したでしょ。御堂さんが気になる……」
「もう、冬華。はっきり言いすぎ」
ゆかりんは顔を赤らめて俯いた。
「へ? え? ああ、ど、どうも。御堂嶽尾です」
御堂の顔も赤い。そして何より動きが変だ。彼はゆかりんを視界に収めると驚いた顔で二、三度瞬きし、その場で手足をせわしなく動かしていた。
「へぇ、良かったな御堂。どうやら僕たちは邪魔みたいだね」
「私達、あっちにいるから何かあったら呼んで」
いつもとは様子の違う二人を残して、冬華と鷲はその場を離れた。
「あの二人いい感じだね。彼女、御堂とお似合いだよ」
二人の姿を視界に捉えたまま鷲が言うと、冬華も笑顔で頷いた。
「ほんとだね。ゆかりん、すごくいい子だからきっと御堂さんも好きになると思う」
「あいつには迷惑をかけっぱなしだからさ。幸せになって欲しいなって思ってたんだ。あ、これ御堂には内緒だよ。すぐ調子に乗るから」
彼が悪戯っぽく笑うので、冬華もつられて微笑んだ。
「そう言えば椎葉くんのご両親は知っているの? その……前世の話とか」
「僕の両親は何も知らないよ。今は外国にいるんだ。父の仕事の都合で、ずっと海外のあちこちを転々としている。僕は、父の海外転勤が決まってからも日本を離れたくなくてさ。我儘を言って、こっちに残った」
「え? じゃあ一人暮らしなの? 一人で家事もやってるの?」
驚きの声をあげると、
「まぁ、家事と言っても僕一人が生活しているだけだから、特に何もしてないよ。食事もコンビニが多いかな? 姉が東京で働いているんだ。両親からは何かあったら頼れって言われている」
「お姉さんか。いいな。私一人っ子だから、羨ましい」
冬華が羨望の眼差しを向けると、
「そうかな。小さい頃は喧嘩ばかりしてたよ」
しばらく和やかに話していると、ゆかりんと御堂がこちらに向かって歩いて来た。
「冬華。私、御堂さんと帰るから、冬華は椎葉くんと帰ってね」
「まぁ、なんだ。そう言う話だ。じゃあな、鷲」
「え、さっき会ったばかりなのに、もう意気投合したの?」
冬華の問いにも答えず、御堂とゆかりんは顔を寄せ合い楽しそうに去って行く。鷲と冬華は唖然とした顔で二人を見送るしかなかった。
「ええと、とりあえず僕たちも帰ろうか」
「うん、そうだね」
鷲に促され、冬華は彼の隣に並んだ。
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