僕たちはめぐり会えた。それはきっと意味がある。

来夢創雫

巡り合ってしまった。もう後戻りはできない。

第1話 邂逅

 風薫る五月、女子高生と思しき三人がファーストフード店にいた。今は中間テストの真っ最中。カウンターで注文を終えた彼女達はトレイを受け取り、窓際の空いている席に座った。


「ねぇ、今日のテストできた?」

 ともちゃんが聞いた。彼女の名前は一条朋渚いちじょう ともな。170㎝の長身で細身。ショートカットで涼しげな顔立ちをしている。


「さっぱりだよ。特に日本史。なにあれ? 範囲が広すぎ」

 長い黒髪の彼女が項垂れた。彼女の名前は夢野冬華ゆめの とうか。クラスではあまり目立たないが、よく見ると、目鼻立ちがはっきりとした美人である。


「三人まとめて補習確定だな、こりゃ。ていうか、明日もテストなのに、私達はここにいて良いわけ?」

 おどけたように、ゆかりんが言った。彼女の名前は菜村優夏梨なむら ゆかり。肩まで伸びた栗色の髪を持つ彼女は、小柄で可愛らしいルックスだ。


「帰ったら嫌でも勉強するでしょ。いくさ前の腹ごしらえだよ。あと一日、頑張らないとなぁ」

 ともちゃんが遠い目をする。


「そういえば、生徒会長の神冷先輩。今朝見かけたけど、やっぱり素敵だよねぇ」

 ポテトを手に持ったまま、うっとりした口調でゆかりんが言った。

「一年の二学期から生徒会長をやっている人って前代未聞らしいよ」

 ともちゃんが、うんうんと頷いて答える。


 神冷先輩は彼女達より一学年上の三年生、名前は神冷興俄かみれい こうが。180cmを超える長身で、黒髪で整った顔立ちのイケメン。クールな印象だが、時折見せる笑顔がかわいいと、女子生徒に人気がある生徒会長だ。


「でもさ、一年生で当時の生徒会長を引きずり下ろすなんて、なかなかできないよね。どんな手を使ったんだろう。買収かな」


 ぼそりと冬華が呟けば、二人が厳しい視線を寄越す。


「そんな、政治家じゃあるまいし、生徒会長になるために、お金を配ったりしないでしょ」

「実力よ、実力。周りから是非にと推薦されて、引き受けたみたい」


 冬華は生徒会長を持ち上げる発言をする二人に、疑いの目を向ける。


「その話も怪しいと思うな。あの人は何かすごい権力と癒着しているんだよ」

「またぁ、冬華は何でも疑いすぎ。だいたい、すごい権力って何?」

「たかが公立高校の生徒会長が、誰と癒着するのよ」

 高らかな笑い声が店内に響いた。


 同じ頃、椎葉鷲しいばしゅうは一人でファーストフード店へと入った。彼女達と通っている高校は違うが、彼も高校二年生。店内を見回すが、待ち合わせの相手はまだ来ていない。あいつ、また遅刻だなと溜息をついた時、ふと、彼の耳に華やかな笑い声が入ってきた。声のする方を見れば、同じ年位の女子三人が窓際の席で話している。

 楽しそうだなと思い、何気なく見た次の瞬間だった。彼の目は一人の姿を捕らえ、立ち竦んだ。


「ああ……やっと……見つけた」


 彼はそう呟いて、ゆっくりと彼女たちに近づいた。手を伸ばして、夢野冬華の長い黒髪に触れる。


「え?」


 突然の出来事に驚いて、冬華は怪訝な顔で男を見た。彼は小柄で詰襟の学生服を着ている。薄茶の髪色、色白で中世的な顔立ちをしていた。昔の知り合いだろうかと記憶を手繰り寄せるが、全く知らない人だった。


「あ……の? 何か?」

 

 男は冬華を見つめ、髪に触れたまま呟いた。

「……シズカ……」 


「はい? 誰です?」

 冬華が目を瞬かせていると、ガタリと音がした。ともちゃんが勢いよく椅子から立ち上がったのだ。


「ちょっと。いきなり何をするんですか? 冬華行こう。ほら、早く」

 ともちゃんは咄嗟に冬華の手を引いた。不審者を見るような目で彼を睨む。


「絶対にヤバい人だよ。ここを出よう」

 ゆかりんが慌てて三人分のトレイを片付け、鞄を手にする。三人はそのまま駈け出して店を出た。

 

 彼はその場を動けず、ただ立ち尽くしていた。


「悪い。遅くなった。待ったか?」


 数分後、椎葉と同じ制服を着た男が、彼の肩を叩く。彼は何かに囚われたように立ったまま、微動だにしない。


「おい鷲、どうしたんだよ」


 細身の椎葉とは対照的な体格をした大柄な男は、不思議そうに彼の顔を覗き込んだ。


「彼女がいたんだ。やっと見つけた」


 椎葉はそう呟いて、微笑んだ。


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