僕たちはめぐり会えた。それはきっと意味がある。
来夢創雫
巡り合ってしまった。もう後戻りはできない。
第1話 邂逅
風薫る五月、女子高生と思しき三人がファーストフード店にいた。今は中間テストの真っ最中。カウンターで注文を終えた彼女達はトレイを受け取り、窓際の空いている席に座った。
「ねぇ、今日のテストできた?」
ともちゃんが聞いた。彼女の名前は
「さっぱりだよ。特に日本史。なにあれ? 範囲が広すぎ」
長い黒髪の彼女が項垂れた。彼女の名前は
「三人まとめて補習確定だな、こりゃ。ていうか、明日もテストなのに、私達はここにいて良いわけ?」
おどけたように、ゆかりんが言った。彼女の名前は
「帰ったら嫌でも勉強するでしょ。
ともちゃんが遠い目をする。
「そういえば、生徒会長の神冷先輩。今朝見かけたけど、やっぱり素敵だよねぇ」
ポテトを手に持ったまま、うっとりした口調でゆかりんが言った。
「一年の二学期から生徒会長をやっている人って前代未聞らしいよ」
ともちゃんが、うんうんと頷いて答える。
神冷先輩は彼女達より一学年上の三年生、名前は
「でもさ、一年生で当時の生徒会長を引きずり下ろすなんて、なかなかできないよね。どんな手を使ったんだろう。買収かな」
ぼそりと冬華が呟けば、二人が厳しい視線を寄越す。
「そんな、政治家じゃあるまいし、生徒会長になるために、お金を配ったりしないでしょ」
「実力よ、実力。周りから是非にと推薦されて、引き受けたみたい」
冬華は生徒会長を持ち上げる発言をする二人に、疑いの目を向ける。
「その話も怪しいと思うな。あの人は何かすごい権力と癒着しているんだよ」
「またぁ、冬華は何でも疑いすぎ。だいたい、すごい権力って何?」
「たかが公立高校の生徒会長が、誰と癒着するのよ」
高らかな笑い声が店内に響いた。
同じ頃、
楽しそうだなと思い、何気なく見た次の瞬間だった。彼の目は一人の姿を捕らえ、立ち竦んだ。
「ああ……やっと……見つけた」
彼はそう呟いて、ゆっくりと彼女たちに近づいた。手を伸ばして、夢野冬華の長い黒髪に触れる。
「え?」
突然の出来事に驚いて、冬華は怪訝な顔で男を見た。彼は小柄で詰襟の学生服を着ている。薄茶の髪色、色白で中世的な顔立ちをしていた。昔の知り合いだろうかと記憶を手繰り寄せるが、全く知らない人だった。
「あ……の? 何か?」
男は冬華を見つめ、髪に触れたまま呟いた。
「……シズカ……」
「はい? 誰です?」
冬華が目を瞬かせていると、ガタリと音がした。ともちゃんが勢いよく椅子から立ち上がったのだ。
「ちょっと。いきなり何をするんですか? 冬華行こう。ほら、早く」
ともちゃんは咄嗟に冬華の手を引いた。不審者を見るような目で彼を睨む。
「絶対にヤバい人だよ。ここを出よう」
ゆかりんが慌てて三人分のトレイを片付け、鞄を手にする。三人はそのまま駈け出して店を出た。
彼はその場を動けず、ただ立ち尽くしていた。
「悪い。遅くなった。待ったか?」
数分後、椎葉と同じ制服を着た男が、彼の肩を叩く。彼は何かに囚われたように立ったまま、微動だにしない。
「おい鷲、どうしたんだよ」
細身の椎葉とは対照的な体格をした大柄な男は、不思議そうに彼の顔を覗き込んだ。
「彼女がいたんだ。やっと見つけた」
椎葉はそう呟いて、微笑んだ。
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