君は死んだことがあるか

ラッキー平山

 Zto(ゼット)は、広大な刑務所の隅、そびえる白い塀の前にいた。彼は確かに罪を犯しはしたが、それはこんなふうに終身刑を受けるほどのものではなかった。司法の裏取引、世間の非難など、多くの不運が重なった。ここへ来て一ヶ月。今はもうあきらめ、昼休みの時間をこのように塀を見上げることで費やしている。



 気づけば彼の前に、一人の羽根の生えた妖精が浮いていた。幼い少女の顔をした、二十センチほどの背しかないそれは、彼の顔を見すえながら、真顔で言った。

「おまえに、おまえの人生を見せてやる」

 そしてどこから出したのか、両手で一冊の分厚い本を差し出した。黒の革のカバーをまとうそれは、題名もなにも書かれておらず、事典のようにも見えた。



「そんなもん持ってたら、没収されるだけだ」

 Ztoが言うと、妖精は真顔のまま続けた。

「心配ない、今ここで読め。読むあいだ、時間はたたない。ここで何時間かけようが、昼休みが終わるまでには読み終える」


「そんなことができるなら、ここから出してくれよ」

 Ztoの冷やかすような口調にも、妖精さんはまるで無表情だ。

「決まっていることだから、それはできん。ただ、おまえほど哀れなものもないので、こうして神のお慈悲により、自身の人生を知る機会を与えてやろうというのだ」

「あっそ。ちょうどいい、暇だったんだ」


 Ztoは本を受け取り、塀を背にあぐらをかいてページをめくった。そこに現れた無数の人間たちは、確かに彼そのものといえなくもなかったが、同時に言いようのない、底なしの泥沼のような暗く途方もない何かへと、彼を引きずり込んだ。二度と戻ってこれない恐怖に何度も顔を振り、気づけば元の刑務所の敷地だった――という、悪夢から覚めるような体験を、何度も繰り返した。

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