誰でも何処でもなんにでも
ことぼし圭
ワンイヤーズクラッカー
自分のことで一杯で、君のお祝いをなにもしていないことに気づいた。
ケーキの上のロウソクや、綺麗な包み紙。唄もメッセージカードもなにもない。
それでも良いよと君が言うなら、それを言わせた私がいる。確かな不甲斐なさを奥歯かなにかで噛み締めて、やっと絞り出せた私の言葉で君は少しでも笑うだろうか。
咲く花のない場所で君を思い出すのはたやすいけれど、色とりどりの花束を贈るのは難しい。そんな性分ではないのだ。格好つけたつもりで、全く情けない。
大げさに喜んでみたり、細かいところにけちをつけたり、その表情のひとつひとつが輝いていたことを知っている。顔かたちではなく全身を使って叫んでいた。生きているとはそういうことだ。そう言われているようだった。
ラブレター、そういうことにしても良い。眉毛のひとつくらいは動かせるだろうか。手の震えは寒いせいだろう。私の声はしないが代わりに文字が届くはずだ。
そう思いこれを記す。
「なにこれ」
「ラブレターだって」
「いつだれがどのようにして」
「どうでもいいでしょ」
「なんで、気になるよ」
「ここに余ったクラッカーがあります」
「さっき全部鳴らせば良かったのに」
「そんなんじゃ、風情がないからね」
「来年も使えるよ」
「いやでもこのクラッカーは今使うべきなの」
「なにか祝い忘れたことでもあった」
「なんでもない日のお祝いだよ」
「いやいいからそういうのは」
「そんな日も誰かにとっては祝う日なの。たとえ誰もが忘れたとしてもひとりかふたりはお祝いするものなの」
「とか言ってクラッカー鳴らしたいだけだよね」
「ばれたか」
「すごく嬉しそうにしてるから」
「今年のクラッカーは今年のうちに鳴らさないと」
「来年は?」
「来年のクラッカーがあります。ちゃんとそこに」
「小さい段ボール箱だけど、これで全部なの?」
「入ってるのは軍資金」
「不用心だなあ」
「いやただのお祝いリストだから。誰しも一日ぐらいお祝いされたい日があって、そんな一日をピンポイントでお祝いするクラッカーがある。誕生日でなくても勿論問題なし! 一人いちクラッカーから参加できます。健全なプロジェクトでしよ」
「余ったクラッカーはなに?」
「予備の予備ね。でも最後はそんな一年を祝いたい私が使う予定だった」
「自分のお祝い?」
「まあそんなところ」
「ふうん」
「はい、ここで、そんな君を祝う予定に変更!」
「なにそれ」
「そんなつまらなそうな顔しない」
「実際面白くないよ」
「今年のクラッカーは今年のお祝いに使う。これがポリシーだから仕方ない。仕方なくても面白くなくても付き合って」
「しょうがないなあ」
「今少し笑ったね」
「気のせいでしょう」
「いやクラッカーのせいにしようよ」
「もとはラブレターのせいじゃない」
「ああ、だってそれ去年書いた現代文の課題だから。なんかどっかいっちゃって、困ってたんだ。見つかって本当に良かった」
「それほど困ってないのはどうして」
「届けたい場所がわかったから」
「先生の机?」
「課題だからね。って違うでしょう」
「へえ。で、どこだったの?」
「場所がわかればそれでいいの!」
「そういうもの?」
「ずいぶん嬉しそうな顔だね。はい、そんな君にクラッカーをあげよう」
「クラッカーだけでいいの?」
「当面はそのままにします」
誰でも何処でもなんにでも ことぼし圭 @kotoboshi21kei
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