第43話:クロエの奮闘
「喉が渇いたな……」
マデリーンたちがいなくなってどれほどたったのだろう。
クロエは首だけ起こし、小屋を見回した。
作業用の木のテーブルと椅子が置かれているだけで、水も食べ物もなさそうだ。
もしあったとしても、腐ってしまっているだろう。
「ここで死ぬのかな……」
思わずそんな気弱な考えが頭をよぎる。
マデリーンはエイデンの心を射止めにいくと言った。
クロエの代わりにエイデンの花嫁になろうとしているのだろう。
(ううん、きっとエイデン様は驚いて私を探しに来てくれる……)
だが、それはいつになるのだろう。
居場所がわかる王家の指輪は取られてしまった。
この森の中にある小屋まで辿り着けるのだろうか。
叫んだせいか喉が痛い。
お腹も先程から空腹を訴えている。
(ここから逃げなきゃ……)
森を抜け、馬車道にさえ出られれば、城まで歩いて戻ることができる。
時間はかかるだろうが、それだけが希望だった。
「縄をなんとかしないと……」
クロエは壁に古いナタがかけられているのに気づいた。
他に刃物らしきものはない。
だが、足首が固定されてうまく立ち上がることができない。
(どうしよう。手も足も縛られていて届かない……)
そのとき、小屋の隅の破れた箇所からツタが見えた。
「できるかな……」
クロエは這いずるようにしてツタの近くに寄った。
「お願い……伸びて……」
花を咲かせるときの要領で、必死でツタに話しかける。
「あなたなら、きっとできるから……」
ぴくり、とツタについた葉が動いた。
ずずっとツタが中へと伸びてくる。
「!! いいわよ、その調子。もっと中へ入ってきて……」
慣れない力の使い方に、ふらっと目眩がする。
集中力が途切れそうになるのを堪え、クロエはツタに念じた。
「壁に沿って上がっていって、そう……」
蔓がナタに近づいていく。
「その刃物に絡んで」
壁にかかったナタにツタの蔓が巻かれていく。
「いい子ね、それを下に落として」
集中しすぎたのか、頭にひどい痛みが走る。
だが、止めるわけにはいかなった。
「そう、ぎゅっとしっかり巻いて――」
ぐぐっとツタに力が入り、ナタが床に落ちた。
「すごい! ありがとう!」
ツタは成長するのが早く生命力が強い。
そのおかげか、初めてだったがうまくいった。
頭がガンガンと痛み、クロエはぎゅっと目をつむった。
「はあ……」
あまりの痛みに涙がこぼれ落ちる。
「頑張らないと……」
このまま倒れ込んでしまいたいが、エイデンの元に戻るのだという強い思いがクロエを
「よっと……」
落ちたナタを足で固定し、手首の縄を切っていく。
切れ味は悪いが、縄も古く
手首に続いて足の縄も切り、クロエはようやく自由になった。
「よかった……」
クロエはよろよろと立ち上がった。
小屋には小さい小窓がついているだけだ。
とてもそこから逃げ出せそうにない。
ドアは一つで、錠前が外からかかっている。
(体当たりすれば……外れないかしら)
「えいっ!!」
思い切り体ごとぶつかってみたが、ただ跳ね返されただけだ。
ニールくらい体格のいい男性なら吹っ飛ばせそうな木のドアだが、非力な上に弱っているクロエでは板にひびすら入れることができない。
「はあ……」
クロエは途方に暮れた。
小窓から見える外はもう真っ暗だ。
よしんば外に出られたとしても安易に移動するのは危険だ。
夜の森の恐ろしさは知っている。
狼も熊も猪も、
たとえ武器を持っていたとしても、一人では
村の周囲には
「小屋にいたほうがいいのかしら……」
だが、マデリーンたちが戻ってきたとき、自分をどうするかわからない。
(最悪、殺される……)
殺しはしない、とマデリーンは言っていた。
だが、それはうまく事が運べばの話だろう。
(私の存在が本当に邪魔になったら――)
こんな誰も来ない森の奥で殺されたとしても、誰も気づかない。
クロエがぶるっと体を震わせたとき、不気味なうなり声が耳に届いた。
「お、狼……!?」
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