第14話:道作りと乗馬
「ふう……」
翌日、クロエはさっそくシャベルを使って城の前の道を掘り返していた。
割れたレンガを除去し、新しく届いたレンガを少し間隔を
敷いたレンガの傍らに肥料と花の苗を植えつける。
やることは単純だがなかなかの重労働で、クロエはあっという間に汗まみれになった。
「ふう」
手袋を脱ぎ、タオルで汗を拭く。
(あちこち土まみれ……作業着に着替えておいてよかった……)
赤褐色のレンガに白い小花は
なかなかの
(いい感じ……ああ、花壇も作りたいな。まずは玄関周辺に飾る鉢植えかな。また町に行って花を見たい……)
「おお、これは見事だな!」
玄関から出てきたエイデンが
「エイデン様!」
クロエは声を
「すごいじゃないか。もうこんなにできているのか」
エイデンが感心したように、整備された花の道を見つめる。
「まだまだです。道というより台座くらいなので」
「いや、レンガをちゃんと敷くだけで全然雰囲気が違う。それに花があるというのはやはりいいものだな!」
「ええ。花の苗もまた追加したいです」
「レンガと一緒に注文しておくか。ケランに頼もう」
ケランは馬にも乗れるので、さっと町まで一人で買い物に行けるらしい。
「……私も馬に乗れたらいいんですけど」
「そうだな。練習してみるか? 馬は二頭いるから好きに乗れるぞ」
「ええっ、いいんですか!?」
「ああ。俺が教えようか」
「で、でも、エイデン様もお忙しいのに」
「いいさ、このくらい。気晴らしになる」
エイデンに連れられて、クロエは
「エイデン様は馬に乗れるのですか?」
「もちろんだ。騎士としての鍛錬は積んでいるし、狩りにも行く」
「そ、そうなんですか……」
どうやら馬に乗れないのは自分だけらしい。
焦りが胸を焼く。
厩舎に来ると、一頭の茶色い馬が顔を出しているのが見えた。
「名前はエトワール。星、という意味だ。ほら、額に白い星のような模様があるだろう?」
「エトワール……」
慣れた手つきでエイデンが馬を出してくる。
クロエはびくびくしながら、そっと馬に近づいた。
「あまり目を合わせるな。怯える。それから、絶対に後ろから近づくな。反射的に背後にいるものを蹴り上げる習性がある」
「わ、わかりました!」
間近で見る馬は見上げるほど大きい。
あの長い足に蹴られたら、ただではすまないだろう。
「まずは餌をやってみろ。少しずつ仲良くなるといい」
エイデンから、ニンジンを小さく切ったものを渡される。
そっと差し出すと、エトワールがぺろりと食べた。
「よし、首のあたりを撫でてやれ」
「は、はい……!」
クロエは恐る恐る馬に触れた。
「少し乗ってみるか? まずは何事も
(馬に一人で乗れるようになったら……きっともっと役に立てる)
「頑張ります!」
気合いを入れて返事をすると、なぜかエイデンが苦笑する。
「いや……頑張りすぎるな。作業の合間の気晴らしくらいに考えろ」
「はい!」
「……」
エイデンが
クロエは少しずつやれることが増えていくのが嬉しくてたまらなかった。
「では、ブーツと手袋をつけろ。ケランのものがある。その間に俺が準備をしておく」
エイデンがてきぱきと馬に
「はい!」
クロエが道具棚から戻ってきたときには、すっかり乗馬の準備が整っていた。
「わあ……」
馬具を装着した馬はとても凜々しく立派に見える。
「まずは引き馬からだな。馬に乗って高さに慣れろ」
「は、はい……」
「では、まず左足を
「あぶみ……?」
「鞍からつり下がっているこれだ。つま先をいれるようにして、そう」
「う……ぐっ……」
思ったより高さがあり、クロエは必死で足を上げた。
「よし一気にまたがれ!」
ぐいっとエイデンに持ち上げられ、クロエは必死で馬にまたがった。
「そうだ、鞍の前をつかんで……いいぞ」
「は、はいっ……」
馬にまたがったクロエは、背が高いエイデンを見下ろしていることに気づいた。
足の先から地面が遠い。
急に恐怖が込み上げてくる。
「た、高いです……」
「はは。最初は怖いだろう。何事も慣れだ。腹と太腿に力を入れろ」
「はい!」
馬上で不安定になったクロエにエイデンが声をかける。
「しっかり両足で鞍を挟むようにしろ」
馬にまたがるのは思ったよりもずっと力が必要だった。
(じっとしているだけなのに、なかなか姿勢が安定しない。馬を走らせられるエイデン様やケランは本当にすごいわ……)
「では、
「は、はい」
クロエはハッとした。
これではまるで自分が主人のようだ。
「エ、エイデン様にそんなことはさせられません!」
「こら! 身を乗り出すな危ない! いいから。俺が好きでやっているんだ。ほら、背筋を伸ばして」
エイデンに引かれ、馬がゆっくりと歩き出す。
見たことのない景色と感触に、クロエは胸が沸き立った。
(すごい、すごいわ! 私、馬に乗っている!)
興奮気味に頬を紅潮させたクロエを、エイデンが微笑ましく見つめた。
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