第18話 黒頭はその手を汚さない②
ひしめき
彼の名は
脳裏に線香花火ほどの予感が閃く。妖術で具現化させた卵が割れると、術者である
麻で結った弦を引き絞ると、竹で造った弓が鋼鉄のような弾性で
狙う相手は河の流れに乗って不安定に揺れる舟の上、しかも
では、何故。
先程は何故、只の一射で
余談ではあるが、何故
ぎりぎりと引き絞った弦を解き放つ。
美しい放物線を描いて矢が飛んだ。が、
がりっと奥歯を噛み締める。
矢の存在が気付かれた。奇襲は気付かれないから有効なのだ。即座にその場から飛び退き、樹皮に裂け目の入った老大杉に駆け上がった。位置を気取らまいと存在感を消す。
念の為、もう一人の近くに卵を設置したが、先程の卵が不発だったのならば、妖術の仕掛けを見破られた可能性が濃い。
固唾を飲んで様子を観察していると、次の卵が割れ、もう一人のでか物が舟の甲板から河にずり落ちそうになっているのが見えた。
「間抜けめ」
遠目に見ても連中が慌てているのが判る。緊張が少し解けて、連中に微笑ましさすら感じていた。次の卵を設置し、とどめの弓を構える。
ぐちゃっと不快な音がした。
思わずびくっと躰を震わせ周囲を確認する。足元に何かが飛んできたようだった。何かが。
「な、何だ」
連中が何か投げつけてきたのだろうか。しかし、どうやって場所を把握したのか。もう一度、舟の上に視線を移すと、間違いなく小さい方の一人が此方を見ている。
「待て、奴ら【何】を投げつけたんだ」
ぎしっと足場にしていた枝が揺れた。振り向くと同時に、衝撃が腹部を貫く。強烈な抉り込むような前蹴りを喰らって
「いやぁ、
殺した筈の、河に落ちた筈の
「まさか卵を、そんな馬鹿な。割らずに掴むことなど、出来る筈は」
「おいおい、ふらつくと危ないぞ。足元注意しないとな。危なっかしくて殴れやしねぇぜ」
酩酊者のように躰を揺らしていた
一方、舟の上では、生気を失ったような表情の
「流石にもう駄目かと思うたわい。とっさに卵を氷漬けにするとは」
「どうでもいいが、主様は何処に行ったのだ」
「さっき
そうか、と残念そうに呟くと
「前にな、無理矢理滝壺に飛び込まされてからと云うもの水が怖くてな。まぁ、宜しく頼む。浅いとこなら大丈夫であろう」
GO WEST 越後屋鮭弁 @mitojun0310
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