【第一章・第二十五話】『私』の運命



「はあっ、はあっ……」



 城下町へと繋がる人気のない狭い路地に、私の荒い呼吸音が大きく響く。



「はっ、……ふう」



 深呼吸を繰り返して、なんとか息を整える。視線を上にあげると、今では忌々しく感じるほど透き通った青空が一面に広がっていた。



「ティアは、大丈夫だろうか……」



 急にいなくなるなんて、あの子には随分と悪いことをしてしまった。


 近頃、ティアには迷惑を掛けてばかりだ。……いい加減、気を引き締めねば。



「完っ全に、油断した……」



 あの御方と似たような魔力だったから、その気配に気付けなかった。


 あの護衛が近くにいても、やっぱりその気配に気付くことは出来なかった。


 その二つの苛立ちに、私は唇を噛む。微かに、血の味がした。



「最悪の気分だな……ははっ」



 思わず私は、自嘲気味に笑ってしまった。だってこんなの、笑うしかないだろう。





 _____かつての主と、かつての仲間。


 どちらも大切で、だから、最期まで自分の手で守り通したかった。もちろん、両方手放すなんてこと出来なくて、結局、こんな選択しか取れなかった。


 この世で最も深い罪を犯した私を、彼らは嘲笑うのだろうか。


 いや、きっと違う。


 私にもなにか事情があったのだろう、と。


 私を庇い、私を擁護し、きちんと解決策を見つけ、私を救い、よく頑張ったと抱きしめてくれるのだろう。






 運命の歯車が回り始めたあの日が、すべてのきっかけだった。


 『国家資格を持った、アストノズヴォルド皇国で最も優秀な研究者』から垂らされた希望の糸を受け取ったにも関わらず、その後に差し伸ばされた手を振り払ったあの日。


 そのときから、私の運命は既に決まっていたのだろうか。






 覚悟は、決めていたつもりだった。


 愛する人の命を引き換えに、神から与えられたこの身を巣食う不治の病。


 今にも消え失せそうだった灯火に、再び火を点けた代償は重い。


 苦しみなんて、そんな生温いものではない。救いなんてものは一切存在せず、桁違いの闇に侵されて、呼吸すらままならなくなる。


 ティアに見つからぬように、ベッドの上でのたうち回りながら、私はその苦痛にひたすら耐え続けた。


 そうだ。だって、これは______。





 ______これは、私への罰だから。

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