11 ゴシップみたいな?
「カリン様!」
翌日。
相当疲れていたのかいつもの起きる時間に起きられなくて、僕は遅刻ぎりぎりに教室へ入った。
なのでマリアンとボエルに朝の挨拶もできずに一時間目の授業に突入し、二人と話せたのは一時間目の授業の後の休憩時間、つまり今だった。移動教室ではないから、慌てることはない。
「マリアン様、ボエル様、ごきげんよう」
「あっ、あっ、あのっ!」
ボエルが何か言いたそうなのに言葉にならない感じで。
「どうかなさったのですか?」
「カリン様、あの噂は本当なのですか」
マリアンが声を落として訊いてくる。
「あの噂?」
噂って何だろう。ニナとレイフが婚約したというのはもう確定で、
「レイフ様と……カリン様が昨晩密会していたっていう……」
「え?」
気が付けばさりげなくみんなが僕たちを見ていた。朝、教室に入った時からなんとなく感じていた見られてる感はこれだったのか。ニナはというと机の上に本を広げてじっと紙面を見ていた。
「あ、あの……レイフ様の背中におぶさっていらっしゃったとか、カリン様のお家の前で……だだだだ抱き合っていたとか……ヤン様は実は婚約者ではなくてレイフ様の影武者だとか……皆様噂をなさっていて」
ボエルが顔を真っ赤にして言う。
はい? 抱き合っていた? 影武者? 芸能ゴシップか! あることないこと書き立てるあれと同じじゃないか。しかも意味がわからないものまである。本当のこともあるけど。
というか、あれを誰かに見られていたのか。人をおぶって歩けば目立つと言えば目立つかもしれないが、僕はドレスを着ていたわけじゃないのに。
あ。レイフか。見られてるのは、目立つのはレイフの方か。相手をよくよく見ればカーリンだったと。
「マリアン様、ボエル様、あれは……」
……まて。
これは。
好都合の大チャンスなのではないだろうか。
最後の意地悪は、ヤンから届いた、メモような短い手紙で少しはわかっている。誤解させて二人の仲を裂く、だ。ここでグッドエンドのフラグが立つ。細かいことは何もまだで、ヤン自身も絡む今回は段取りが必要だから顔を見て打ち合わせをしたいとも書かれていた。
だけど自然に乗っかるなら今な気がする。僕の失敗が招いた噂だ。僕がちゃんと引き取らなければならない。
僕は小さく息を吐いて、姿勢を正した。よし、ニナもちゃんと教室にいる。
「ああ……どなたかが見ていらっしゃったのですね」
「え! カリン様!? ほ、ほ、本当にっ!!!!」
噂に過ぎないと本当に思っていたのだろうマリアンとボエルが思いっきり驚いていた。と同時に教室の空気も変わった気がする。
「幼い時に、レイフ様は私に小さな白いお花がついた指輪をくださいました。それ以来、私はレイフ様をお慕いしております。昨晩は疲れてしまった私をレイフ様が家まで送ってくださいました」
嘘は何一つ言ってない。指輪はメアリからの話だけど。
「あああああの、でも、レイフ様はニナ様と」
「お二人のことですので、私は何とも申し上げられません」
「カリン様、ではヤン・マグヌソン様は」
マリアンが神妙な面持ちで訊く。
「もちろんご存知です」
どれもぼかしまくってるが、一応嘘ではない。要はそれを、誰がどのように受け取るか、だ。
「あの!」
きた。
ニナが椅子を景気よく倒して立ち上がる。
「それは……本当なのですか?」
顔色が悪い。ニナのウィークポイントはレイフだ。そう反応することを僕は期待していた。
「私が出まかせを言ってるとおっしゃるのですか? スヴァンホルムの名を汚してまでつく嘘なんてありませんわ」
「……」
ニナは何も言えないようだった。
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